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  • 執筆者の写真和田 翔

製造業に特化したAIで、労働力不足を解消!高精度な検品・品質管理を月額課金で手軽に



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社フツパー (以下、フツパー)で代表取締役を務める大西 洋氏に話を伺いました。


同社は、製造業に特化したAIサービスの提供を通じ、人手不足や属人化などの課題解決をサポートするスタートアップ。「J-Startup KANSAI」や米マイクロソフト社の「Microsoft for Startups」などに選出され、順調な成長を遂げている最中です。


しかし大西氏は、起業までの歩みを「失敗の連続」だったと振り返ります。どんな道のりでフツパーの創業へと至ったのでしょうか?


取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)

和田 翔   (ライター)

 

大西 洋(おおにし ひろ)氏 略歴

1994年生まれ。兵庫県出身。広島大学工学部を卒業後、日東電工でICT部門の法人営業に従事。退社後はQ&AのWebサービス開発を手掛ける。起業を目指してイスラエルへ出向くが、VCからの協力を得られず1カ月で帰国。その後就職した設備会社で、工場向けAI/IoTベンチャーの事業開発グループリーダーを務めながら、起業に向けた事業計画を練る。2020年4月、広島大学の友人らと共にフツパーを創業。創業後わずか42日でANRIから数千万円の資金調達を実現し、現在までの累計調達額は5.4億円にのぼる。

 

多彩なAIサービスで工場の自動化・最適化をサポート


生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、まずフツパーの事業内容を教えていただけますか?


大西 洋(以下、大西氏):私たちは、製造業向けにAIサービスを提供する企業です。主力の一つが「メキキバイト」と呼ぶソリューションで、外観検査や品質管理に用いられています。検品に特化した⾼精度なAIで作業を⾃動化し、さらに品質改善もサポートできる点が強みです。




ライター 和田(以下、和田):そのほかに、どんなサービスを提供しているのでしょうか?


大西氏:主に工作機械向けに提供している「振動大臣」も主力の一つです。既存の設備に振動センサを取り付けて、設備の異常を自動で検知できます。職人の勘や感覚を可視化して、工具の破損などの設備トラブルを未然に防ぎ、稼働時間の拡張や作業の省力化に貢献できるソリューションです。


資料:フツパー 会社概要より

そのほかに、データを分析して業務の最適化につながるアクションを提案する「Hutzper Analytics」、製造業向けAI⼈員配置最適システム「スキルパズル」なども開発しています。


和田:いずれのサービスも製造業に特化しているんですね。大西さんから見て、現在の製造業にはどのような課題があると考えていますか?


大西氏:いろいろな課題はありますが、特に深刻なのが人手不足の問題でしょう。私たちのサービスは工場全体の自動化・最適化をサポートするもので、人手不足の解消にもつながると考えています。


資料:フツパー 会社概要より

和田:製造プロセスの自動化・最適化の分野には、競合のサービスも多数あると思います。御社のサービスにはどのような強みがあるのでしょうか?


大西氏:製造業に特化したAIサービスを安価に、手軽に利用できることが大きなポイントとして挙げられます。検品作業など単一のカテゴリーに特化して開発しているので、低価格で高品質なサービスを提供することが可能です。


また、業界でよく利用されるリースではなく、契約期間の縛りのない月額制で提供しています。つまり「いつでも解約できるサブスクリプション」であることも特徴の一つですね。


和田:これまでの導入実績を教えてください。


大西氏:現在、約120社と取り引きしていて、川崎重工業や住友商事グループ、佐川急便などの大手企業、そのほかにも工業や食品製造業などを中心に実績があります。ちなみに大きな割合を占めているのは、従業員の規模が300名以下の中小企業です。


製造業の課題解決に向け、起業の道へ


西山:起業の経緯についても教えてください。大西さんは学生や会社員だったころから起業を考えていたんですか?


大西氏:大学生のころは「ふつうに就職したい」と考えて会社員の道を選びました。仕事自体は楽しかったですが、一方で「いつか起業したい」とずっと思っていて、考えた末に1年ほどで退職することに決めました。


和田:そのころからフツパーの構想はあったんですか?


大西氏:そのころはまだですね。ただ製造業に身を置いて、いかにシステム化されてないかを目の当たりにしました。アナログな仕事を見て「これはまずい」と感じましたが、このまま業界の中にいても解決するスキルは身につかないとも考えていました。そこで、自分で起業して、「ITサービスを世に出すぞ」と決心しました。


和田:退職後はどちらで活動していたんですか?


大西氏:岡山県にある「ギークハウス岡山」という、プログラマーやデザイナーが集まるシェアハウスで活動していました。オーナーの藤田圭一郎さんは、地方ではまれな起業意識の高い人で、家業を継ぎつつエンジニアとしても活動していました。当時の自分にとっては一番身近にいる起業家で、大きな影響を受けた人物です。こんなことを話しても「うそつけ!」と言われそうですが。


和田:ロールモデルが身近にいる環境で成長していったんですね。その後はどんな活動を?


大西氏:一時は自分で開発したWebサービスを提供していました。いわゆるQ&A機能を使えるシンプルなサービスです。一部からいい反響を得られましたが、今振り返ると決してもうかる類のサービスではなかったですね。その後、起業を目指してイスラエルへ渡ることに決めました。




起業を目指してイスラエルへ


西山:それはまた大きな決断ですね。どうしてイスラエルを選んだのですか?


大西氏:世間で起業といえばシリコンバレーですよね。ただそこを目指す日本人は山ほどいて、きっとみんな自分とは比べられないほど優秀だろうと。それで第2のシリコンバレーはどこかと考えた結果、イスラエルがいいと考えました。


四国と同じくらいの面積に、大阪府と同程度の約900万人が暮らす国ですが、年間10万社が起業して、1000社がM&Aをされているんですよ。R&Dへの投資額も他国より抜きん出ていて、「これはもう行かない理由がない」と感じました。


西山:現地で頼れるツテはあったんですか?


大西氏:いえ、全くありませんでした。しかも現地に住む日本人の投資家に連絡しても反応がなくて……。仕方ないので、友人のエンジニアと一緒に現地まで行ってしまおうと決めました。


西山:どれくらいの期間滞在したんですか?


大西氏:だいたい1カ月でしたね。Airbnbなどいろんな手段を使ってなんとか宿泊場所を確保しましたが、雨が降ったらパソコン作業ができないような場所もありました。


西山:思い切って行ったものの、現地で大変な生活をされたんですね。起業や出資につながる成果はいかがでしたか?


大西氏:現地のマッチングイベントに参加したり、VCと会ったりすることはできました。ただ、「こんなことをしたい」と伝えても「そうか、頑張れ」くらいの反応で、次につながる話にはなりませんでした。


そうこうするうちに一緒に渡航した友人が帰国してしまい、それからは孤軍奮闘の滞在生活でした。いったん現地で職を探そうとしても、就労ビザがないことには難しくて……。つくづく自分でもダサいなと思いますが、「もうこれ以上ここに滞在しても意味がない」と感じて、帰国することに決めました。


イスラエル滞在中の写真

和田:帰国後はどんな活動を行ったんですか?


大西氏:一緒にイスラエルへ行った友人と合流して、都内の格安アパートで共同生活を送りながら起業を模索しました。最終的に当初のWebサービスでの起業は断念することに決めましたが、岡山暮らしからイスラエルへの渡航、帰国後の活動を含めた半年間は印象深い日々を過ごしました。


和田:お話を聞くだけで激動の日々だったことがわかります。その後、再び就職することに決めたんですよね?


大西氏:そうですね。大阪にある創業90年の設備会社に就職しました。実は当初から「いつか起業します」と伝えた上で受け入れてもらった経緯があります。そこで1年半ほど、グループ会社で工場向けのIoT製品の立ち上げなどに携わりました。


西山:そのころにフツパーのビジネスモデルができあがったんですか?


大西氏:再就職したころは、まだ固まっていませんでした。ただ製造業をターゲットにしたAI、特に画像認識に特化したサービスを作ろうとは考えていて、徐々に計画を練っていました。退職後に学生時代からの友人である黒瀬(取締役COO 黒瀬康太氏)と合流して、弓場(取締役CTO 弓場一輝氏)を勧誘して、フツパーの創業へと至ります。


西山:創業して間もなく最初の資金調達を果たされたんですよね?


大西氏:はい、創業から42日後に独立系VCのANRIから数千万円の資金調達を行いました。正直なところ運の要素が大きいですが、これまで手痛い失敗を何度も繰り返していたので、投資家に伝えるべきポイントを整理できていたのが功を奏しました。そのころはコロナ禍の真っ只中で、Web面談で話を進められたことがプラスに働いた面もあるでしょうね。


本当に現場で使えるサービスを目指して


和田:その後、御社は累計調達額5.4億円、約120社との取引実績がある企業へと成長しました。他方で、大西さんはこれまでの歩みを「失敗した事例」としてオープンにしていますよね。成長中の起業家として、そうした弱みを見せたくないとは考えないのでしょうか?


大西氏:キラキラした部分ばかり見せて、いい気分になる人は少ないのではないでしょうか。地方大学の出身で、ましてもともとAIの専門家でもない私が取りつくろっても意味がないというか……。むしろ失敗もオープンにした方が、プラスに働くと思っています。


私たちがやっていることは、AI分野における王道の逆張りと言えます。例えば、現場に行くときに作業服を来ているのも、その一環です。フツパーの事業は現場で泥臭く、地道にやるしかありません。そこは腹をくくって取り組んでいます。


西山:失敗を経て、大きな成長を遂げた大西さんたちだからこそ説得力を帯びる言葉ですね。これからの活躍を期待しています!本日はありがとうございました。



 

取材を終えて

工場へのAI導入と聞くと「最新かつ高価な」サービスをついイメージしがちです。他方、製造分野の中小企業は全国に66万社あり、その全てが十分な設備投資の資金を持っているとは限りません。「はやい、やすい、超巧い」を掲げるフツパーのサービスはそんな企業にやさしいサービスだと感じました。人手不足の解消や技術の継承、生産性向上などに悩む企業が、課題解決への足がかりをつかむことを願ってやみません。(ライター 和田 翔)




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