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技術と才能(Art)の力を社会の利益(Benefit)に変える:IDEABLE WORKS


関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、アーティストが創作活動に集中できる環境を作り、アーティストを起点とした100人のファンコミュニティをつくることを目指す株式会社IDEABLE WORKSの代表取締役 寺本 大修(てらもと だいすけ)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:垣端 たくみ(生態会 事務局)

奥田 菖斗  (学生スタッフ)




 


代表取締役 寺本 大修(てらもと だいすけ) 氏 略歴


1984年大阪府出身。近畿大学経営学部卒業後、NTT西日本にて新規事業開発担当に従事。2016年より近畿大学の学生ベンチャー起業支援プログラム『Okonomi(おこのみ)』を立ち上げ、学生起業家の支援を手掛ける。2018年12月に父が急逝し、家業である箔押し印刷会社を継ぐ。箔押し技術を使用した作品づくりを手掛ける過程で、価値のあるモノづくり、作品づくりを存続させるためには、「こだわったもの」を「こだわった買い手」が喜んで購入できる、小さく、強いファンコミュニティが重要であると考え、2020年7月同社を設立する。

 

■アーティストの悩みを全て解決する「HACKK TAG」


生態会 奥田(以下、奥田):本日はよろしくお願いします。まずは、事業概要を教えていただけますか。


株式会社IDEABLE WORKS 代表取締役 寺本社長(以下、寺本)


私たちは、アーティストが行う創作活動以外の業務をまとめて支援するSaaSサービス「HACKK TAG」をリリースしています。本サービスは、アーティスト本人を支援することが特徴であり、アーティストを起点とした100人の小さく、強いファンコミュニティをつくることを目指しています。


また、アーティスト活動の「デジタル化」と「営業・事務活動」における課題を解決するDX支援サービスを展開中です。アーティストの作品を高精細スキャンでデジタル化することで価値の保管と、2次転用の可能性を提案します。また、専用のCRM機能を提供することでファンとの関係性を見える化します。以上のことをサービスとして行い、アーティストが創作活動に集中できる状態を作り、ファンとの関係を強化することで、収益を最大化することを目指しています。

「HACKK TAG」スマホサイトページ


奥田:ありがとうございます。DXサービスとは具体的にどういったものでしょうか。

デジタルデータを活用したオンデマンド版画サービス

寺本:現在は作家さん、特に画家さんに向けて行っています。実は作家さんはユーザー情報を手書きで持っており、多くは名前と住所だけを持っている状態なので、顧客に対して上手くアプローチができていない状況があります。そこで私たちは、作家さんにデータを送ってもらい、顧客データの整理を代行し、顧客に対する営業も同時に行うといったDXサービスを行っています。


そして今最も力を入れているのが、アナログアート作品を高精細スキャンでデジタルデータに変換することです。デジタル化された作品をB向けにライセンス化し、商業販売を行ったりしています。現在品質の高いデジタル作品が集まってきており、これらを版画として販売したり、住宅リフォーム会社に壁紙としてアート作品を提供したり、さらには、海外市場をターゲットに日本のアート作品データを展開していくことを目指しています。


そのため、現在はコストをかけてデジタル作品を収集しています。実際に、アーティスト向けのサブスクにて、年間10枚をデジタルスキャンできるプランを準備しています。私たちはB向けに売っていくことをプロモーションとしているので、作家さんと一緒にアート作品を売っていき、コミュニティを広げていくことを目指しています。こういった活動の先に、1人のアーティストに対し、愛情を持った100人のファンコミュニティが出来上がると考えています。


奥田:まずはアーティストが生活できるファン経済圏をつくり、toBに向けてアートデータを販売するということですね。




■日本アート市場の課題解決に向けた緻密な戦略


奥田:現代において、アート作品だけで生活できる方々はどれくらいいるのでしょうか。


寺本:アーティストの数は日曜画家も含めると80万人近くいると思われますが、その内アート作品だけで生活できるのは、ほとんどいません。その結果、多くのアーティストはアルバイトなど仕事を掛け持ちしているのが実情です。ただ世界のアート市場は7兆円であり、日本では3500億円ほどと言われています。


奥田:大きい市場と比べて、アート作品だけで生活できる方々は少ないのですね。


寺本:日本は比較的アーティストの数が多いのですが、アート作品だけで生活できる人は少ないです。その背景には、日本のアート作品の価格帯が世界と比べて安いことが挙げられます。そのため、アート作品を購入する人にっとっては、美味しい市場と言われているんです。実際に海外からのアーティストへのアクセスが山程きているが、価値よりも安く販売してしまう事例なども多くあります。


生態会 垣端(以下、垣端):日本のアーティストは値付けが上手くできていないということでしょうか。


寺本:実はそうではありません。現在、日本には2種類のアーティストがいらっしゃいます。それは、芸大出身の方と、芸大出身ではなく独自でアート作品を作りSNS等で有名になった方です。


前者は、旧態依然のアートルールを守り、売値も買い手も昔から変わらないため、小さいマーケットで常に勝負しているといった課題があります。


後者は、SNSで勝負するため、アーティストの言い値でつけた作品が実際に売れたりするんですね。そしてそのまま市場の大きい海外へと出ていく状況になっています。そのため、実力があり、理念を持っているアーティストの方々が不遇となってしまう現状が発生しています。なので、値付けではなく、旧態依然の構造自体に課題があると考えています。私たちは、前者の方々に、販売の力やマネジメントするサービスをSaaSとして提供し、彼らが活躍する世の中にしていきたいと考えています。


奥田:アート業界の構造に課題があったということですね。日本人の多くがアート作品を購入しているイメージがあまりないのですが、実際のところはどうなのでしょうか。


アーティストの情報がわかるページ

寺本:確かにアート作品を購入する日本人は少ないです。しかし、アート作品の展示会に行く日本人はかなり多いです。


この現象は何なのかを調べたところ、日本人は大きい買い物をする際は、言い訳が必要なんですよ。例えば、「有名な人がこの作品が良いとおすすめしてたから」といったことです。


私たちはこの課題を解決するために、顧客データの管理と同時にアーティストのパーソナルなデータも収集しています。なぜなら、日本人は、自分と接点があると認識すると、その方に親近感を感じ、応援したい気持ちになるからです。


実際にアーティスト作品をB向けに販売するとなると、相手方が相手方の上司に提案することが必須になります。その際に、「絵が良かった」等の理由では、相手方の主観になってしまい、上手くいきません。


しかし、アーティストと何らかの共通事項を見出すことができれば購入の言い訳が生まれると思っています。例えば、同じ地元出身であるとか、同じ高校の先輩後輩であるなどです。その動機づけを図るために、アーティストのパーソナル情報を収集することにも力を入れています。


奥田:なるほど。私も身に覚えがあるので、日本人の特徴を取り入れたマーケティング戦略は勉強になります。



■コロナが作り出した新たな挑戦


奥田:2020年7月に会社を設立したと伺いましたが、なぜコロナ禍でサービス開発に踏み切ったのですか。


寺本:起業した経緯にもつながるのですが、2018年12月に家業である箔押し印刷会社を手掛けていた父が急逝し、突如会社を継がないといけなくなりました。箔押し印刷とは、金箔やメタリック加工を施す技術です。箔押し印刷は、1スタンプが5~10円ほどの単価となっており、このままだと事業を続けることはできないと実感しました。その中で、コロナが直撃し、ものづくりの現場そもそもがなくなりかけていたという危機感から新しい事業をつくろうと思い立ちました。


またポジティブな面で言うと、当時近畿大学に勤めていたのですが、コロナの影響で在宅勤務が増え、場所に固定されない働き方になりました。結果として、自分の時間をコントロールする幅が増えたので、やりたかった挑戦ができるようになったのが大きいです。


奥田:普段の仕事をしながら、事業を作っていくことはかなり大変だったのではないでしょうか。


寺本:確かに時間を切り詰めてという点では大変でしたが、感情面では学生に背中を押されたのが大きかったです。というのも、私自身近畿大学にて、学生への起業支援サービスに従事していました。


指導の過程で、学生は新たなことに挑戦していく姿勢や学生にリスクを取って挑戦することを必要性を説いているのに、新たな挑戦ができていない自分にモヤっとした気持ちがありました。そしてコロナが始まり、会社が傾きかけるという機会や裁量権のある時間ができたこと、そしてモヤっとした感情が上手く重なり、今しか新たな事業を始めるタイミングがないと思い、IDEABLE WORKSを設立するに至りました。



■ファンコミュニティ拡大に向けて

IDABLE WORKSのオフィスにて(左:寺本、右:奥田)


奥田:今後の展望について教えてください。


寺本:現在作家さんにサービスを提案した際に、8割の方に賛同してもらえるようになりました。手探りで仮説検証を行い、少し手応えをつかんだなと実感しています。


加えて課題も明確です。それは、サービスのクオリティを上げ、作家さんの信頼をもう一段上げていくことです。作家さんは表現力で売っているので、ノーコードサービスである「Bubble」から始まった私たちのサービスも、作家さんに納得してもらえるクオリティのサービスを作る段階に来ていると考えています。そのために、保有するデータの用途開発ができる企業と提携を目指しています。加えて、B向けの販売の充実化も図っていきたいと考えています。


正直資本次第にはなりますが、ここからサービスを拡大し、私たちの目指す、アーティスト1人に100人のファンコミュニティをつくることに近づけていきたいです。


 

取材を終えて:「100人の小さく、強いファンコミュニティをつくる。」代表の寺本氏は、力強く答え、アーティストの更なる支援に向けたビジョンを熱く語ってくれました。芸術のDX化やtoB向けの販売、練り込まれたマーケティング戦略等、「HACKK TAG」を軸に様々なサービスを展開しています。展望として、B向けにアートを素材として使用する広告代理店やコワーキング会社に営業をかけていく意欲も見せており、芸術の価値が浸透し切れていない日本にとって大きな価値を提供しているサービスであると実感しました。飛躍の準備が整ったIDEABLE WORKSにますます期待が高まります。(学生スタッフ 奥田)