関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、製造業向けのクラウド型商品開発支援システム“ラクション”を開発する株式会社IKETEL 松本栄祐(まつもと えいすけ)代表取締役社長にお話を伺いました。
取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)
八木曜子(生態会ライター)
松本栄祐(まつもと えいすけ)代表取締役 略歴
北海道大学(工学部)、東京大学大学院(新領域創成科学 環境システム学専攻)卒業。
1992年生まれ、大阪府出身。大学院卒業後、ダイキン工業に入社し、空調機の設計・商品開発や社内のDX推進、社外との協業プロジェクト等に携わる。日本、世界中を見て、日本を良く!と思い株式会社IKETELを起業。地域活性化サポートを通じて地域産業強化の必要性を感じ製造業/産業アップデートにピボット。
■地域活性化から製造業開発支援へ
生態会 垣端(以下、垣端):本日はお時間いただきありがとうございます!まずはじめに、事業内容を教えて下さい。
株式会社IKETEL 松本(以下、松本):自社で商品開発を行う製造メーカーを対象としたクラウド型商品開発支援システム「ラクション」を開発しています。製造業の商品開発業務の課題である情報管理をAIやクラウドの技術で効率化し、最適な商品や開発プロセスを実現するシステムです。
ライター八木(以下、八木):ありがとうございます。起業の経緯を教えていただけますか?
松本:前職は新卒で入社したダイキン工業という空調機器メーカーで、商品開発の仕事をしていました。業務用の空調機器やエアコン、特に換気商品の設計や技術的なこと、企画部の一部も担当していました。
起業したのは2021年になります。前職とは直接は関係ないのですが、元々旅行が趣味で、これまで日本全国、世界中を訪れた経験があり、その中で、日本が大好きになった一方、昨今叫ばれているような地域課題、社会課題を身を以て経験し、それを何とかしたいと思い起業しました。始めのうちは、地域の活性化や関係人口創出が重要だと考え、ワーケーション関係の事業を展開していました。
八木:最初は地域活性が主軸だったのですね。そこから現在の製造業サポートに至る流れを教えてください。
松本:はい。当時、ワーケーションはトレンドであったこともあり、地域活性化において関係人口を増やし、人の流れや地域の横の繋がりを作ることが大事だと考えていました。成功すれば、単なる繋がりだけでなく、ライフスタイルや他の面でも多くのメリットがあると考え、コワーキングスペースの設計やイベントの開催、ソフトコンテンツの作成など、人力でできることを行いました。しかし、人力では限界を感じてITを活用して仕組み化することにしました。そして実はこのシステムもラクションという名前でした。
ラクションという名前は「インタラクション」、つまり相互交流や相互作用という意味から取っています。最初は、地域のローカルプレーヤーと呼ばれる地域で活動している方々と、地域課題を解決したい企業をマッチングするプラットフォームの構築から始めて、このプラットフォームを通じて、多くの自治体や企業様と連携し、実証実験を行いました。マッチングの成功要因をデータ分析を通じて明らかにし、効果的なマッチングができるように努めました。
ただ、マッチングはするものの、そこから先の協業や共創といったものが生まれないこと、繋がりやテクノロジーが産業や暮らしのアップデートに実装されていないことに課題を感じました。考えた結果、このやり方では繋がった先の目的がないからうまくいかないのだと気づき、ピボットしました。
八木:初期のマッチングサービスでの体験から、利用目的を明確にすることに気づいて、製造業に焦点を絞ったのですね。それは大きなピボットでしたね。では製造業にフォーカスした理由について教えて下さい。
松本:製造業は日本のGDPの約20%を占める基幹産業であるため、変わっていったときのインパクトが非常に大きくでることと、前職での経験が活かせると思い、製造業領域にフォーカスをしました。
製造業の構造には大きく二つの軸があります。一般的には、生産供給プロセスのサプライチェーンが製造業のイメージとして浮かぶと思いますが、私たちが注目しているのは、商品開発を中心としたエンジニアリングチェーンと呼ばれる新しい価値を作り出すプロセスです。
商品開発は多くの部署と関わり、多くの要素を考慮する必要があります。企画から設計、試作に至るまで、スムーズな流れではなく、非常に複雑で全体最適を考えながらニーズを形にする仕事です。メーカーの競争力の源泉で、花形の仕事です。まだ世の中にない価値を生み出していくクリエイティブでやりがいのある仕事でもありますが、約7割が価値を生まない無駄業務というように大変非効率的な業務内容が多くを占めています。
特に課題感が深いのが情報管理周りになります。書類探しや、情報の共有・調整といった無駄業務が約7割近くを占めており、過去の知見も活かせていないといった状況になっています。それに対して、ラクションでは、AIやクラウドの技術を用いて、無駄な業務を自動化し、過去の知見を見える化し活用できるようにすることで、業務の効率化を目指しています。
■AIで商品開発の業務を削減&効率化
垣端:なるほど、製造業の商品開発では情報管理が課題なんですね。では、ラクションについて詳しく教えてください
松本:ラクションでは、従来、Excelやパワポで作成して、共有サーバーや基幹システムに保管していた商品・開発情報(書類)をクラウド上で作成することができます。作成されたデータは、自動で連動整理され、クラウド上で一元的な共有管理、データ分析による開発プロジェクトのステータスや統合情報の見える化、そして、データを学習したAIチャットボットによる情報検索や開発推進のサポートを受けることができます。
これにより、開発工数やコストの大幅な削減ができ、データに基づく最適な商品・開発プロセスの設計や若手社員の即戦力化等にも繋がります。
現在、商品開発の現場で使用されている基幹システムは大手ベンダーのシステムが多く、多機能ではあるものの、情報を人の手で整理しないといけなかったり、システムが複雑で使いにくかったりといった部分があります。一方、ラクションは商品開発に特化し、機能的で使いやすい仕組みを提供します。また、汎用的なクラウドサービスでは、自分たちでカスタマイズする必要がありますが、ラクションは最初から商品開発に最適化されています。これは、商品開発の現場を知っている人材とITに強い人材が協力して作り上げたからこそ可能でした。
垣端: なるほど、商品開発特化したことでターゲットが明確になったのですね。開発においての課題について教えてください。
■商品開発のNo.1基幹プラットフォームへ
松本:システムの細かいところまで設計するのが難しいですね。私自身が要件として欲しい機能までは出せますが、それを具体的に実現するかは試行錯誤しています。また、メーカーごとに書類のフォーマットや業務フローが微妙に違うため、どこまで自由度を持たせるかが課題です
実際メーカーによって管理の仕方や書類の種類が異なるので、ある程度標準化したいと考えています。将来的には外部との連携や協業、共創を促進したいと考えているのですが、標準化することで、SaaSとして提供しやすくなりますし、標準化されたフォーマットがあれば、オープンイノベーションが進みやすくなると考えています。
そして社内データだけでなく、他の会社からの成功事例を問題ない範囲で抽出・分析できれば、より良い商品が生まれる可能性が高くなります。標準化されたフォーマットがあれば、様々な企業のデータを統合・比較しやすくなります。
最初の段階は、業務の効率化に特化してやっていますが、将来的には、集まったデータを基に、生成AIを用いて、自動で企画・設計を行ったり、外部との協業・共創を生み出していける、商品開発のNo.1基幹プラットフォームを目指しています。
八木:なるほど、ラクションが広がれば外部連携、他社との共創や協業といった可能性が広がりそうですね。それはIKETELさんのミッション・ビジョンに繋がりますね。では将来についての展望を教えて下さい。
松本:そうなんです。わたしたちもやりたいのはこの最後の段階の外部コラボなんです。ただ、この段階を実現するためにはまずユーザーを増やさなければなりません。多くの企業がDXやIT活用の重要性を認識していると思いますが、まだITを十分に活用できていない企業も多いです。まずは業務の効率化を図り、その効果を実感してもらうことが第一段階です。その後、オープンイノベーションの話に進みたいと考えています。
月額課金のSaaSモデルで、企業規模に応じた料金モデルを予定しています。9月にはβ版がローンチ予定です。このラクションを通じて、商品開発力を強化し、製造業/産業アップデートして、地域・社会活性化へつなげたいと考えています。地域産業が強くなると、人も金も集まり、解決できる地域・社会課題が多くあるはずですから。
八木:本日はありがとうございました!
取材を終えて
インタビューを通じて、株式会社IKETELが地域課題解決に注力していた時期からピボットし、現在の事業に至った経緯を知りました。サービス自体は大きく変化しましたが、日本を強くしたいという思いは依然として強く感じられました。また、クラウド会計のfreeeの商品開発版という説明が非常にわかりやすく、私自身が商品開発の経験があるため、彼らの抱える課題とペインに強く共感し有用なサービスだと感じています。これからの成長を応援したいスタートアップです。 (ライター八木)
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