インバウンド全方位の事業展開で、早期上場を目指す。連続起業家の3度目の挑戦:インバウンドホールディングス
- 和田 翔
- 6 日前
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更新日:2 日前

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社インバウンドホールディングスで代表取締役社長を務める坂本正樹氏に話を伺いました。
「インバウンドのインフラ」を構築中の同社は、訪日外国人の「旅マエ・旅ナカ・旅アト」でのサービス提供を着々と進めつつ、その後の上場も見据えています。しかし2024年に同社を立ち上げた坂本氏の歩みは、決して平坦ではありませんでした。かつて携わっていた事業では上場の志半ばで倒産し、自身も苦境に立つことに。それでもなお、前に進み続ける坂本氏の思いに迫ります。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局長)
和田翔 (ライター)
坂本正樹(さかもと まさき)氏 略歴
1986年、米国アルバカーキー生まれ。岐阜聖徳学園大学 教育学部を卒業後、SMBC日興証券に勤務。その後、共同創業して道の駅プラットフォーム「みちグル」を立ち上げ、読売テレビ放送へバイアウト。インバウンド隆盛時に(株)APAMANと合弁会社を設立し、民泊運営で最大規模に成長するもコロナ禍で事業は解散。自身は自己破産に陥る。2024年、市場の再成長を確信し、インバウンドホールディングスを設立。IPOと新たな産業基盤の構築を目指す。
「旅マエ・旅ナカ・旅アト」をカバーする独自アプローチ
生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、インバウンドホールディングスが取り組む事業について教えてください。

坂本正樹氏(以下、坂本氏):私たちは訪日外国人旅行者に向けた「インバウンドのインフラ」を構築している会社です。特徴的なのは、旅行を「旅マエ・旅ナカ・旅アト」の3つのフェーズに分けて、それぞれでサービスづくりをしている点です。
「旅マエ」では、TikTokやInstagramなどでショート動画メディアを運営しており、旅行前の情報収集のサポートや日本の魅力発信をしています。
特にメインとなる「旅ナカ」では、全国500室以上・稼働率89%超の民泊・ホテル運営に加えて、地域の店舗を紹介するプラットフォーム「SPOT JAPAN」を展開中です。
「旅アト」では、日本で気に入った商品をリピート購入できる越境ECサイトを年内に作成しようと取り組んでいます。

ライター和田(以下、和田):旅ナカで取り組んでいる「SPOT JAPAN」についてくわしく教えてください。
坂本氏:「SPOT JAPAN」は、国内の民泊やホテルにQRコードを設置し、滞在中の外国人に周辺店舗を紹介するサービスで、いわば「訪日外国人向けのAIコンシェルジュ」です。QRコードを読み取ると、多言語対応で近場のおすすめ店舗を3店舗だけ厳選して紹介できます。慣れない外国の地で「おすすめの店を教えて」と検索して何10店舗も候補を出されるとかえって困りますよね。あえて3店舗に絞ることで、広告を出す店舗側は狙った顧客へとリーチしやすくなり、ゲスト側も自分に合った選択をしやすくなるんです。
また、QRコードを設置するだけで済むので制作・設置コストは極めて安価ですし、ホテル側で冊子や端末などを管理する負担がない点もメリットに挙がります。今年7月時点で4,600室に導入が決定しているほか、大手広告会社との総代理店契約も協議中で、大きく成長中のサービスです。

「インバウンドといえば」のポジションを目指して
西山:「インバウンドホールディングス」という社名はとても壮大な印象を受けます。こう名付けたのは、なにか狙いがあるのでしょうか?
坂本氏:多くの人は「インバウンドを代表する会社は?」と尋ねられても、実はなかなか答えられないんです。理由の1つは、宿泊施設の運営やツアー企画などの限られたフェーズのサービスは市場に多数あるものの、「インバウンドの全フェーズ」をカバーできるサービスがこれまでなかったからだと考えています。
先ほど述べた通り、私たちは「旅マエ・旅ナカ・旅アト」の3フェーズそれぞれのサービスを展開し、訪日外国人旅行者に向けた「インバウンドのインフラ」を構築することで、「インバウンドのことなら」と真っ先に想起されるポジションを狙っています。その思いを社名にも込めました。

倒産と破産。苦難を乗り越え、3度目の挑戦へ
和田:坂本さんの起業家としての歩みを教えてください。
坂本氏:最初の起業は2015年です。地方創生ブームに乗って道の駅に関連する事業を立ち上げ、最終的に読売テレビ放送に事業譲渡しました。2社目は2017年、APAMANと民泊の開発・運営を行う合弁会社を立ち上げました。翌年には丸紅とも資本業務提携を結び、順調に上場準備を進めていたのですが、そこでコロナの直撃を受けることになります。
当時の私たちの民泊業は「借り上げ」の運営スタイルで、物件のオーナーに固定家賃を支払っていました。運営代行業なら規模を縮小して生き残る道もありましたが、私たちは需要が激減しても家賃を払い続ける必要があり、毎月どんどんキャッシュが減っていく状況でした。解約の交渉をしようにも、なかなか調整がうまくいかず…。1年以上粘りはしたものの最終的に会社は倒産し、私自身も自己破産を経験しました。
西山:倒産に自己破産ですか!? それはとてつもない経験ですね…。その後はどんな活動をされていたのですか?
坂本氏:もう死ぬ気で働きました。1日4時間睡眠で、知り合いの会社で新規事業の立ち上げを手伝ったり、上場企業のアイドマ・ホールディングスで新規サービスの立ち上げを行ったりしながら、とにかく必死で働いているうちに、気がつけば自己破産に関する残務整理も完了していた、という感じです。
ただそうやって一息ついた時に、前の会社で上場できなかった悔しさがこみ上げてきたんです。それに加えて、コロナを乗り越えてゼロから立て直す経験をして、「どうせ起業するならより大きな目標を」と考えました。そして2024年9月、「50歳までに時価総額1,000億円」と掲げ、インバウンドホールディングスを立ち上げました。

「遊ぶように働く」精神で、大きな目標へ邁進
西山:坂本さんは、たくさんの困難がありながらも、大きな目標に向かってとても楽しそうに働いている印象を受けます。どんな考えで仕事に取り組んでいるのでしょうか?
坂本氏:もともと仕事のオンオフがないタイプで、「遊ぶように働く」をモットーにしています。私たちのミッションの「エンターテインメントの力で世界を優しくする」を実現するためには、まず自分たちが楽しんでいないとお客様を喜ばせることはできませんから。
和田:今後の展望を教えてください。
坂本氏: 今期の売上は8億円に達するペースで進んでいて、来期は16億円まで積み上げる計画です。そして2027年中に部屋数2,000室、売上25億円(うちSPOT JAPAN売上5億円)の達成とIPOを目指します。
社名にもあるように将来は持株会社化して、多種多様な子会社を立ち上げる構想です。その構想を実現するには、子会社の数だけ社長が必要になります。ですから今は、人を育てることに高いモチベーションを持って日々取り組んでいるところです。自分に関わってくれる全ての人に大きく成長してほしいですし、経営者を目指す人材はその目標を叶えてほしいと考えています。
もちろん「50歳までに時価総額1,000億円」の達成も真剣に考えています。だからこそインバウンドという時流に乗った切り口で事業展開しつつ、宿泊業だけではない多様な展開をしようと考えているんです。インバウンドの波を単なる外貨獲得のチャンスとして捉えるのではなく、日本の素晴らしさを発信し、ファンを増やし、笑顔と共に優しさの輪を世界中に広げていく。その想いを胸に、日本の未来と経済に貢献できる会社を目指して邁進していきます。
西山:大きな目標の実現に向けて、生態会としても応援しています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました!

取材を終えて
取材時に「『インバウンドと言えば』と言われて思い浮かぶ企業はありますか?」と問われ、答えに窮しました。インバウンドに特化した旅行代理店や飲食店は数あれど、「インバウンドの全て」を広くカバーできるサービスは、案外思い浮かびません。そんな漠とした分野のなかで、真っ先に挙がる企業へと成長することがこの会社の目標です。今後どう展開していくのか、興味は尽きません。(ライター 和田翔 )