地域資源の新たなモデルが若者を呼ぶ!コスプレイヤーの世界観を丹波で伝える:カケルタンバ
関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社カケルタンバで代表取締役CEOを務める土田翔大さんに話を伺いました。
同社は、2025年設立。兵庫県丹波地域の神社・森・古民家といった遊休資源を、コスプレイヤー向けの撮影スタジオとして提供するスタートアップです。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)、小松建太(ライター)

■土田翔大(つちだ しょうだい)氏略歴
1994年、兵庫県丹波市生まれ。大阪市立大学(現・大阪公立大学)経済学部を卒業後、2017年に農薬メーカーに入社し鳥取県で農協や農家への営業を担当。
2021年に丹波へUターンし、家業である株式会社土田化学で製造・検査・生産管理などの現場を経験したのち、経営企画にも携わる。地域に残る神社・森・古民家などの資源とコスプレをはじめとするサブカルチャーを掛け合わせた事業の可能性を見出し、2024年に撮影スタジオ「森のフォトスタジオ〜丹波〜」を立ち上げ、2025年に株式会社カケルタンバを設立、代表を務める。
一枚の写真から始まった、神社×コスプレ

西山(生態会事務局、以下、西山):今日は、大阪から2時間かけて丹波に来ました。とても自然豊かで素晴らしい場所ですね!まず、カケルタンバ設立には、どのような経緯があったんでしょうか。
代表取締役 土田翔大氏(以下、土田氏):きっかけは、地元にある一つの神社でした。地域の方から「若い人が来るような取り組みをしたい」と相談を受けていた頃、誰も参拝しなくなった神社を見つけたんです。氏子も高齢化し、お祭りも先細り。そこで写真を撮ってSNSに上げてみたら、何人かのコスプレイヤーの方が「この神社で撮影したい」と反応してくれました。
もともと自分もアニメやアイドルといったサブカルチャーが好きだったので、興味を持ってDMで話を聞いてみたんです。すると、森の中の神社のようなロケーションで撮りたいけれど、撮影許可を取るのが難しい、所有者もわからず連絡もつかない、と。撮影場所に困るコスプレイヤーと、若い人に来てほしい神社。その間に立とうと思ったのが始まりです。

小松(生態会ライター、以下、小松):神社を撮影に使うのは、ハードルが高くなかったですか。
土田氏:そうですね。神社は宗教施設なので、撮影地として開かれた例は全国的に見ても、ほとんどありません。まず氏子の皆さんに、事業内容を1枚の紙にまとめて説明に行きました。反対されるかと思っていたのですが、「マナーを守ってもらえるなら、やってみたら」と受け入れてもらえた。前職の農薬営業で、ご年配の方を相手に、新しい薬を丁寧に説明して理解してもらう、という仕事をずっとしてきたので、その経験が生きたのかもしれません。
「泊まらず帰ってしまう」課題から古民家ゲストハウスへ
小松:実際に、事業が動き出してからの反響はいかがですか。
土田氏:2024年10月にスタジオを始めると、東京や広島など全国から来てくださるようになりました。ただ、せっかく丹波まで来ても、そのまま帰ってしまう。理由を聞くと「泊まる場所がない」と。それなら、と古民家を改修してコスプレイヤー向けのゲストハウス「Mashiro」を作りました。この古民家改修を機に、法人化に踏み切ったんです。
一棟貸切で、20畳超の大広間が2室ある築180年の古民家なのですが、コスプレイヤーの方は水回りを気にされると聞いていたので、シャワー室とキッチンは、特にきれいに整えました。集客はX・InstagramなどのSNSが中心で、事業開始から約2年で累計約2,100人に来ていただきました。リピート率も15%を超えています。

西山:2000人以上も!それは素晴らしいですね。事業の経営はどのような方と一緒にされているんですか。
土田氏:3名体制です。観光開発・宿泊事業を担当する宮野健一は、元JR西日本でマーケティングを担っていて、二次交通の知見が豊富です。事業開発・地域起業支援を担当する梶原健史は、元ソニーで日本・アジア向けのゲーム開発をしていて、サブカルチャーやエンタメに明るい。二人とも、もともと丹波にゆかりはなく、地域の魅力に惹かれて移住してきた仲間です。
「好き」が起点ではなく、素地だった
西山:ところで、土田さんご自身は、コスプレをされるんですか。
土田氏:はい。去年の夏に、仲良くなったコスプレイヤーの方に誘われて始めて、11月にデビューしました(笑)。もともと事業のためにやっていたわけではないのですが、自分でやってみると表現の面白さや難しさがよくわかります。

小松:今までコスプレをしていなかったのに、コスプレに関する事業を始めたんですね。
土田氏:実は、この事業の根っこには、20〜30代の若い人たちへの「恩返し」があります。鳥取での営業時代から、いろんな場面で若い方々に助けられてきました。何とか力になりたい、という思いがずっとあって。その中で、自分の好きなサブカルチャーと重なる「コスプレイヤー」が、いま一番熱いと感じている層なんです。
小松:丹波という地域への思いも強いのでしょうか。
土田氏:そうですね。自分を育ててくれた地域に、何か返したいという気持ちがあります。人口も若い世代も減っていく中で、まずは丹波を知ってもらいたい。住んでもらえたら一番ですが、そこまでいかなくても、四半期に一度ふらっと訪れてくれるような関係でありたい。ニュースで「丹波」と聞いたときに、頭の片隅に浮かぶ存在になれたら嬉しいです。
目指すは、丹波を「コスプレの聖地」に
西山:今後の展開は、どんなことを考えていますか。
土田氏:いまはBtoCが中心ですが、アパレルや芸能・モデル事務所、映像制作会社によるLOOKBOOKや宣材写真、MV、PR動画といったBtoBの撮影需要も取り込んでいきたい。海外では台湾を軸に、インバウンドの獲得も準備中です。ゆくゆくは、撮影・宿泊・交通を一体で提供できる仕組みや、アニメ・ゲームのIPタイアップによる聖地巡礼づくりにも取り組みたいと考えています。

小松:実現したら丹波が活気付きそうですね。土田さんはこの事業を通じて、丹波をどんな場所にしたいと考えていますか。
土田氏:丹波を「コスプレの聖地」にしたいんです。いまコスプレの聖地といえば、東京・名古屋・大阪の三大イベントが挙がります。でも都会のイベントが集まる場だとすれば、丹波は表現者が生きるキャンバスになれる。推しのキャラクターを表現するコスプレイヤーにとって、その舞台となる場所を丹波として提供したい。「5大聖地」を挙げるとき、そこに丹波の名前が入っている。それが私の夢です。

生態会のコメント
自らも衣装をまとうようになった土田さんは、コスプレイヤーを「推しを表現する人たち」と呼びます。その表現を受けとめる舞台を、彼は都会ではなく、寂れた神社や古民家に見出しました。作り物ではない、時間の積み重なった風景こそが、表現者の世界観をより深く映し出す。「丹波を表現者のキャンバスに」地域資源に新たな価値を吹き込むその発想が、若者を遠い土地へと呼び寄せています。表現する人と、それを待っていた土地の出会いが、これからどんな景色を生むのか。楽しみでなりません。(ライター 小松建太)




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