上場経験者が語るスタートアップが勝つための「一点突破」と「組織論」 【3/3イベント開催レポート】
- 大洞 静枝
- 1 日前
- 読了時間: 7分

2026年3月3日(火)、京都経済センターにて、関西スタートアップ交流イベント「上場経験者が語る『リアル』と次なる挑戦者たち」が開催されました。
本イベントは、関西スタートアップ支援を行うNPO法人生態会、けいはんな学研都市の中核拠点である株式会社けいはんな、京都の産学公連携を推進する京都KOIN(京都知恵産業創造の森)の3団体による初の共同開催として実現しました。
起業家支援を行う3団体が一堂に会することで、関西のスタートアップエコシステムに新たなうねりを生み出す。そんな期待と決意が込められたイベントです。当日、会場は起業家や支援機関、事業会社などで埋め尽くされ、終始熱気に包まれた交流の場となりました。

取材・レポート 大洞静枝(生態会 事務局)
【上場経験者:株式会社イルグルム 代表取締役社長CEO 岩田進氏】
迷ったら、一点突破で集中せよ
冒頭に登壇したのは、生態会副理事長で株式会社イルグルム代表取締役社長CEOの岩田進氏です。学生時代に二度の起業を経験。三度目に広告効果測定の企業を立ち上げ、2014年に東証マザーズ(当時)に上場を果たしました。2025年には、東証スタンダードへ市場変更しています。
岩田氏は上場当時、3つの事業を並行していましたが、これがリソースの分散を招き、結果として成長の妨げになったと振り返りました。未上場の企業が100億円単位の資金調達を行い、赤字を恐れず投資を加速させているのを横目に、「上場したことで自由に資金が使えず、調達もできない状態が続いた。もはや上場が足かせになっていると感じた」(岩田氏)。
上場企業ゆえに機動的な投資が制限されるジレンマを抱える中、岩田氏は事業の選択と集中という手段を取りました。

「一つの事業に集中している会社にはなかなか勝てない。上場企業としてあるべき姿としてはまずは一定突破でしっかり成長していく。それが十分伸び切って、100億単位の利益が出るフェーズに至ってから、次なる柱を立てるべき」と話しました。さらに、「複数の事業をやりたい気持ちもわかるけれど、順番を間違えないことが大事」とアドバイスを送りました。
唯一の武器「スピード」を最大化させる
また、組織作りのタイミングについても言及しました。PMF(市場に受け入れられる製品ができている状態)が完了していない段階で従業員を多く抱えると、社長のリソースが人間関係の調整やマネジメントに奪われてしまうと指摘。
「一番大事なサービス開発がおろそかになり、バーンレート(1カ月あたりに消費されるコスト)だけが上がっていくケースが多い。まずは社長自らが率先してプロダクトやサービスを磨いていくことが大切」と話しました。
最後に、岩田氏は「スタートアップ唯一の武器はスピード」と強調。「少数精鋭で市場の変化を捉え、いかに速く市場にフィットするものを作れるか。そのために重要な戦略こそが集中」というメッセージに、参加者たちは真剣に耳を傾けていました。
【先輩スタートアップ:インタラクティブ株式会社 代表取締役社長 臼井隆秀氏】
地域の可能性を開放し、成長インフラを創る
続いて、インタラクティブ株式会社 代表取締役社長の臼井隆秀氏が登壇しました。サイバーエージェント出身の臼井氏は、インタラクティブ株式会社を2009年に創業。現在、デジタルマーケティングと人材事業を全国展開しています。
「私たちのパーパスは、地域企業の成長インフラになり、地域の可能性を開放すること。地域最大の課題は、ノウハウと働き手の不足。このような課題を解決するための事業展開をしています」(臼井氏)
人材事業では、地域に特化した「ジョブアンテナ」を展開。気になる企業や求職者に「いいかも!」サインを双方向で送り合う独自の機能が特徴です。9周年を迎えた2025年には登録会員数12万人を達成し、サービスの拡大を続けています。

「地方でも積み上げれば、東京よりも大きなマーケットになります。現状、沖縄で上場している会社は7社ほどで、スタートアップとして上場した例はありません。私たちが上場することで、地域からでも成功できることをメッセージとして伝えていきたい」と決意を語りました。
【次世代を担うスタートアップのピッチ】
すべての医師にエキスパートの知恵を:株式会社Cubec 代表取締役 CEO 奥井伸輔氏
次にスタートアップを代表して株式会社Cubec 代表取締役 CEO 奥井伸輔氏が登壇。Cubecは、生成AIとウェブ公開論文や非公開ガイドライン、エキスパートの実践知を組み合わせた独自データベースを活用して情報を提供することで、医師の臨床現場での疑問を解決する臨床ナレッジAI「Cubec」を開発しています。
奥井氏は、「今後はユーザー数を増やしながら、医療の先にいる患者さんごとに最適な治療アルゴリズムをつくっていきたい。国立循環器病研究センター発ベンチャーとして、2030年のIPOを見据えています」と話しました。

データセンター業界の人不足を解決する:Data Center Xpert株式会社 副社長 片柳海氏
続いて、2社目のスタートアップであるData Center Xpert株式会社の片柳海副社長がピッチを行いました。同社はデータセンター業界の人材紹介事業、コンサルティング事業を展開。さらに、電気主任技術者連盟を運営しながら、ゼネコン等に電気主任技術者の委託業務も行っています。
片柳海副社長は「データセンター市場ではマーケットの主要プレイヤーは外資系ですが、我々のような英語が話せて業界を熟知した人材エージェントが少ない。エンジニアが代表を務め、語学と専門性を兼ね備えている点が我々のエッジです」と述べ、YouTubeでの発信を通じて市場に新しい人材を呼び込む独自の試みについても紹介しました。

【登壇4社によるトークセッション】
上場の意義と、成功への鍵は?
後半のQ&Aセッションでは、生態会の垣端がファシリテーションを務め、さらに踏み込んだ議論が交わされました。
奥井氏からの「組織づくりのタイミングは?」という質問について、岩田氏は「15人規模で問題が起き、従業員がまとめて辞めたこともある。右腕には先に株を渡して、経営目線を持ってもらうべき」と助言。臼井氏も「最高の経営チームを作る意識を持つのが遅れたのが最大の反省」と応じました。

片柳氏からの「上場を目指すべきか?」という問いに、臼井氏は「人生は短い。会社をパブリックにすることで、次の世代に引き継いでいける」と回答。片柳氏からは「迷いがある」と率直な現在地が語られ、岩田氏からは「上場により社員が家を買えたり、家族を養えたりという安心感が生まれた。採用においても大きなプラスになった」と実体験に基づいたアドバイスが贈られました。
最後に、会場からの飛び入り質問「成功に最も重要なことは?」(株式会社やるか・やらんか。人材事業部 淀澤氏 )の質問に登壇者たちは、「社長の思いと取捨選択する力(奥井氏)」、「属人性、でもスケールする際には仕組化が必要(片柳氏)」、「経営者の力量。経営者に力があれば、いい経営チームができて、いいビジネスモデルができて、いい組織ができて会社が伸びていく(臼井氏)」と回答。最後に岩田氏からの「やるかやらんかの精神で、一点突破すること」と社名になぞらえた回答で、会場は盛り上がりを見せました。
スタートアップエコシステムを加速させていく
イベントの最後に、岩田氏は自身の活動に込めた想いを参加者に伝えました。
「生態会の活動に関わり、気づけば10年が経ちました。エコシステムを可視化し、横の連携が生まれることで、全体が進化していく。その結果として、私たち自身も含め、皆さんと共に発展していけると強く信じています。今日のご縁を大切に、力を合わせ成長していきましょう!」

この言葉に、会場からは温かい拍手が送られ、熱気と余韻を残しながら、会は閉会となりました。先輩たちの芯を突くアドバイスと次世代の熱意が混ざり合ったこの場所から、いつかエコシステムという大きなうねりが生まれる。そんな未来を確信させるイベントとなりました。
関西スタートアップのすべてを一冊で網羅
関西スタートアップレポートは、2020年1月より年に4回発刊されている生態会独自のレポートです。
日々の地道な取材から得た、関西の起業エコシステムに関する最新情報を、生態会の目線でお届けします。定量データと定性調査の結果をもとに、関西スタートアップの現状と全体像を多角的に捉えた充実した内容となっています。
巻末には、設立5年以内の成長意欲の高い企業約500社の独自のデータを掲載。スタートアップに関心のある方や、関西の起業家精神に触れたい方におすすめの一冊です。




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