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  • 執筆者の写真近藤きょう

患者それぞれに最適な抗がん剤を診断:京ダイアグノスティクス

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、患者それぞれに適した、より治療効果の高い抗がん剤の診断支援サービスを事業展開している、京ダイアグノスティクス株式会社の代表取締役 小西 一豪(こにし かずひで)氏に取材しました。


取材・レポート:西山 裕子(生態会 事務局)、近藤 協汰(生態会 学生ボランティア)

 

小西一豪 代表取締役 略歴

1970年生まれ。京都薬科大学卒業後、京都大学大学院修士/博士課程(薬学)を修了。


米国にて博士研究員、ノバルティスファーマ株式会社・大正製薬株式会社にて創薬研究開発に従事、その後、外資系VCや分析機器ソフトウェアベンチャーの設立等で複数のベンチャーマネジメント、経営・技術アドバイザーを行う。

国際認証MBA、中小企業診断士。

 

■患者のがん細胞から、ベストな抗がん剤を診断


生態会 近藤(以下、近藤):本日はお時間いただき、ありがとうございます!では初めに、京ダイアグノスティクス株式会社の事業内容を教えていただけますか。


京ダイアグノスティクス 小西(以下、小西):弊社は、がんの個別化医療を実現すべく、様々なサービスを提供していく予定です。


*個別化医療:患者の体質や病気の特徴にあった治療を行うこと。個々の患者に対する治療効果の最大化と副作用の最小化を目的としている。


オフィスが登録されている、京都大学の棟

主要事業は、がんの診断支援サービスです。

診断プロセスは、がん患者から摘出されたがん組織を用います。患者個々のがん組織より、がん幹細胞(スフェロイド細胞)を選択的かつ効率的に培養し、それに様々な薬剤を振りかけることで、より効果的な抗がん剤の特定が可能です。その後、医療機関を通して医師・患者に情報提供しています。診断結果を基に、より治療効果の高い薬剤を薬剤投与前に決定選択できることが特徴です。


この事業の基本的なビジネスモデルは、BtoBtoCになります。エンドユーザーが患者で、その間に医療機関および医療者が介在する形です。





京ダイアグノスティクスのビジネスモデル


近藤:京都大学の研究成果から設立されたとのことですが、競合サービスは存在していますか?


小西:現在はいないですね。強いて挙げるとするならば、2年ほど前から遺伝子診断というものがあり、非直接的な競合関係となっています。ただし、そのサービスはあくまで遺伝子変異を診断するものであるため、少し事業モデルが異なっています。遺伝子も重要ですが、弊社は実際の(患者の)がんスフェロイド細胞を用いているため、ダイレクトな診断と言えます。



近藤:一人一人のがん細胞を診断するとなると、時間やコストがかかるように思えるのですが、御社が担当しているのですか?


小西:そうですね、弊社が行なっています。ここが一番のミソで、今まではがん幹細胞(スフェロイド細胞)を培養することが難しく、従来技術だと約40%程の患者でしか培養できませんでした。その原因は、培養スピードが遅いことです。


しかし、京都大学医学部の技術を応用し、弊社が最適な手法を確立し、90%以上の方を診断することができています。また、がんスフェロイド細胞の増殖率も高く、2週間ほどあれば診断することが可能です。そのため、従来と比べ革新的に効果的で、素早いサービスとなっています。



京ダイアグノスティクスを産んだ研究成果


■技術シーズの事業化に魅せられ、京ダイアグノスティクスに参画


生態会 西山(以下、西山):御社の設立時、どのようなきっかけで小西さんは参画されたのですか?


小西:私、実は2年前に参画したばかりです。科学技術振興機構(JST)の打ち出している事業化プログラムに、武藤教授の研究成果が採択され、京ダイアグノスティクスの設立に至ります。当時は株式会社産学連携研究所の隅田剣生さん(現取締役)が経営を担当していたのですが、参画と同時に、私が代表取締役社長を引き受けました。


*科学技術振興機構:科学技術の振興を目的とした国立研究開発法人

*武藤 誠:京都大学医学研究科特命教授。また、京ダイアグノスティクス株式会社 顧問


研究室での風景(1)

西山:参画を決めた魅力は何でしたか?


小西:私自身が製薬会社で薬を創っていたこともあり、培ってきた知識・経験が活かせるのではないかという点です。また、京都大学で学位を取得したということも、縁があったのではないかと思っております。


そして、最も大きな要因は、個別化医療の必要性を感じていたことです。製薬会社で薬の研究開発をしていた際に、私の先輩と、「色々な病態を持つ患者さんがいるため、それぞれに合わせた薬をもっと開発していかなければならないのではないか」という話をしていたのです。



多くの人に薬を届けることはもちろん重要ですが、個別に病態に合わせた薬を届けるシステムを構築したほうが、個々の患者さんにも効果的ですし、ストレス低減に役立ちます。

また、医療費の削減にも有効ですね。日本には国民健康保険という素晴らしい仕組みがありますが、保険加入者は所得に応じた保険料を支払うため、それ以上の税金負担分を意識することがあまりありません。

ただ、裏では薬品の価格を払うために税金医療費が投入されています。


私は、この構造を改革できる京ダイアグノスティクスが、とても魅力に感じました。



小西さんと、機器の説明を受ける生態会スタッフ




■京ダイアグノスティクスへの参画から得られたもの


近藤:御社に参画したからこそ、得られたものなどはありますか?


小西:それは、メンバーと共に技術シーズをビジネスに変える喜びと経験・知識ですね。


私はもともと薬学部だったので、ライフサイエンス分野の研究シーズを医薬品というお金の元に変えることに魅力を感じていました。しかし、最も印象的だった出来事はアメリカでのポスドク経験です。


当時アメリカの学生は、たとえ研究を主軸にしていても、MBAを取得する方が多い感じを受けました。理由を聞くと、皆「アメリカの強みは最先端の研究成果をお金に変えることだ」と言っていて。野心的な学生と関わる中で、研究シーズをスタートアップとして事業化する魅力を知りました。


そんな経験から、いつか研究開発型ベンチャーを経営しようと考えていたら、先方から声をかけていただき、チャレンジすることになりました。


研究室での風景(2)

弊社を経営する中で、大学の研究シーズを事業化していくことは、日々勉強することが多いです。そして、それらを取り巻く多くの関係者の方々と関われているのは、とても良い経験となっています。もちろん「研究成果をお金に変えること」は簡単ではないですが、それを考えることがエキサイティングですね!



■将来は世界進出も視野に


近藤:今後はどういった方針で、事業を展開していく予定ですか?


小西:2028年にIPOを目標としています。現在の事業は、事業会社との共同研究が主になっています。そのため、この受託研究の数を増やしていきます。


また、現在は大腸がんに種類を絞っていますが、今後は対象がん種を拡大していく予定です。


近藤:この技術は日本だけでなく、世界的に見てもユニークなんですか?


小西:そうですね。このがんスフェロイド細胞を選択的かつ効率的に培養することが難しいようで、世界で数種類しかありません。現在は、未だ類似技術・企業が中国やヨーロッパに点在している状況です。

そのため、将来的には世界的に展開することも考えています。


近藤:なるほど、とても成長性が高いですね!本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!



 

取材を終えて:小西さんへの取材を通して、大学発スタートアップの魅力や難しさを知ることができました。同氏は研究員からVC、そして経営者としても活躍しており、技術とビジネス双方に深い理解があります。そのため、大学発スタートアップの経営者としてはまさしくベストと言えるでしょう。何より、言葉の節々から、本当に「技術シーズの事業化」を楽しんでいることが伺えました。


また、患者にとって価値の大きい事業であることも、魅力の一つです。患者は腫瘍摘出後もがんの再発に脅かされており、抗がん剤による治療を必要とするとのこと。抗がん剤による副作用を考えると、抗がん剤の投与回数を減らす同サービスは間違いなく有意義なものではないでしょうか。(近藤)




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