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下水・糞尿、海水、空気から化学品を製造!神戸大から世界初の技術:光オンデマンドケミカル

  • 執筆者の写真: 森令子
    森令子
  • 3 日前
  • 読了時間: 6分

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、光オンデマンドケミカル株式会社代表取締役CEO 津田明彦氏に話を伺いました。同社はメタン、塩素、酸素を原料として、化学品を製造する世界初の技術を有する神戸大学発スタートアップです。

取材・レポート:西山裕子・廣岡奈津子(生態会事務局)、森令子(ライター)




津田明彦(つだ あきひこ)氏 略歴

1973年大阪府生まれ、信州大学工学部物質工学科卒、大阪大学大学院工学研究科物質化学専攻博士前期課程修了、京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了、博士(理学)。神戸大学大学院理学研究科准教授。東京大学大学院工学系研究科助教などを経て、2008年に神戸大学着任。滋賀医科大学客員准教授(2017年~)や内蒙古医科大学薬学院客員教授(2018~2023年)なども兼任。神戸大学学長表彰など受賞歴多数。2023年の池田泉州銀行 第23回ニュービジネス助成金オープンイノベーション賞を受賞を機に、2024年4月に光オンデマンドケミカル株式会社を設立。


ウンチから薬を作る会社⁉︎バイオ由来原料から化学品合成


生態会 西山(以下、西山):本日はありがとうございます。事業概要を教えてください。


光オンデマンドケミカル株式会社 津田明彦氏(以下、津田氏):私たちは、下水や家畜ふん尿などのバイオガスから得られるメタン、海水の電気分解で発生する塩素、空気中の酸素といった原料に光を照射して化学反応を引き起こす世界初の技術「光オンデマンド合成法」で、化学品を製造する神戸大学発のスタートアップです。わかりやすく、“ウンチから薬を作る会社”と説明することもあります。


ホスゲンという多種多様な化学製品の原料となる化学物質を、常温・常圧・触媒なしで合成することができ、かつ、バイオ由来原料と再生可能エネルギーを活用できる画期的な技術です。



世界初の技術「光オンデマンド合成法」とは


生態会 廣岡(以下、廣岡):神戸発「光ものづくり」として大変注目を集めていますね。


津田氏:はい。世界初の科学・技術として注目いただいており、メディアの取材・掲載は既に100件を超えています。神戸大・神戸市と「光ものづくり」実証実験も進行中です。


「光オンデマンド合成法」の革新的な点は、温室効果ガスの一つとして削減が求められているメタンから、ホスゲンという非常に高い反応性をもつ化合物を合成できることです。ホスゲンは、エネルギーをほとんど必要とせずに様々な化学反応を引き起こす物質で、医薬品や農薬、食品添加物や接着剤など様々な化学品の原料として、世界で年間1千万トンが製造されています。ホスゲンを原料とするグローバルな化学品市場は⼗数兆円あり、大きな需要が見込めます。


従来のホスゲン製造法と比較して、「光オンデマンド合成法」は安全で安価、コンパクトで低環境負荷です。さらに、生産したホスゲンを瞬時に様々な原料と反応させ、化学品へと変換できるため、少量多品種の柔軟な生産が可能という利点もあります。これにより、これまで安全性や設備面、生産量などの理由でホスゲンが使えなかった分野に新しい選択肢を提供し、新たな⾼付加価値化学品を開発できると考えています。



神戸市や製薬会社など、様々な企業・行政と連携


西山:具体的にはどのような事業が進行しているのですか?


津田氏:様々な企業や行政と取り組みを進めています。例えば、第一工業製薬株式会社は当社と連携し、環境負荷を低減する新たな製造プロセスの実証設備を2024年に導入しました。また、神戸市・神戸大との実証実験では、下水処理場で発生するバイオメタンを活用し、これまでは発電用途に限られていたメタンガスという資源を、医薬品やポリマーの原料など有用な化学品としてアップサイクルする可能性を検証しています。



光オンデマンド合成システムの機器を説明する津田氏
光オンデマンド合成システムの機器を説明する津田氏

研究から起業へ:関西の起業エコシステムに感謝!


生態会 森(以下、森):研究者として大きな実績をあげてこられた津田さんが、自ら起業された理由を教えてください。


津田氏:もともと起業志向ではありませんでしたが、社会に役立つ研究がしたいという思いは常にありました。「光オンデマンド合成法」は2009年から研究しており、当初から社会で実装すべき技術になるという確信があり、脱炭素や資源循環といった社会的ニーズが強まることを予測しながら研究を進めてきました。企業と共同で実用化しようと色々と動いてきましたが、諸条件から事業化が進まず、自ら事業として社会に届けようと起業に至りました。


西山:起業にあたり、ご苦労されたことはありますか?


津田氏:実は、本当に楽しいことばかりなんです。大学は限られた人と過ごす狭い世界であり、外部との間に”大きな壁”があるように感じてきました。「自らビジネスをやろう!」と志したことで、大学の外に出て、経済、法律など様々な専門家と出会い、毎日いろんなやりとりでができて、すごく新鮮です。


なかでも、関西の起業エコシステムには、本当に助けてもらっています。特に、初めて参加したビジネスプランコンテストである池田泉州銀行 第23回ニュービジネス助成金(2023年)でオープンイノベーション賞を受賞し、メンタリングなど様々な助言や後押しをもらったことで、起業を決断できました。さらに、⼤阪産業局の主催する「起動」2期に参加したことで、事業に関する人脈・知見など本当に多くの支援をいただきました。大阪産業局さんがいなければ、私たちの今はありません。


関西の皆さんは起業家を応援してくれ、育ててくれます。「関西から世界へ」という思いで、地元の行政や企業と手を組んで成長していきたいと思っています。


2024年9月26日に開催された「起動」2期デモデイの様子
2024年9月26日に開催された「起動」2期デモデイの様子

森:資金調達については、どのような状況ですか?


津田補助金や助成金などを活用しながら、事業を進めています。NEDOや神戸大学イノベーションをはじめ、「起動」や池田泉州銀行などからも資金的に支援を得ています。今後については、売上拡大による成長を優先しつつ、事業シナジーが見込めるCVCとの連携も検討していく予定です。会社の価値が正しく評価されるタイミングを、慎重に見極めようと考えています。


これからの挑戦:「光ものづくり」の拠点形成


西山:今後の事業展開はどのように考えていますか?


津田氏:2025年には、1日50キロ規模の小型パイロットプラントを稼働させ、受託生産だけでなく、自社製品の開発も始めます。さらに、2027年には中型パイロットプラントの稼働も視野に入れるなど段階的なスケールアップを計画しています。


今年は、大阪・関西万博にも参加予定です。2025年7月1〜7日は大阪ヘルスケアパビリオン、9月30日〜10月6日は神戸大学SDGsフューチャーライフエクスペリエンスに出展し、「光ものづくり」の世界をLEGOブロックで表現したジオラマで、一般の方々にこの技術の魅力を伝えていきたいです。


神戸・大阪を中心に「光ものづくり」の拠点形成を進め、関西の化学品製造業と連携しながら、地域全体へ波及効果を生み出せるよう成長していきたいです。




取材を終えて 

津田氏が学生時代を過ごした信州大学の自然豊かな環境が、現在の研究と事業の原点になったこと、政府系金融機関で活躍する津田氏のご兄弟がエグゼクティブ・アドバイザーを務め堅実な財務戦略を助言しているといったお話も印象的でした。関西の起業エコシステムへの感謝が伝わってきて、「関西の起業エコシステム活性化」を目指すNPOである生態会としても、大変嬉しい取材でした。 (スタッフ 森 令子)

関西スタートアップレポート説明

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