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執筆者の写真和田 翔

旨味成分4倍・最長20日の冷蔵可・高品質デザインで、和牛ギフト市場の成長を:マーブラン



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は株式会社マーブラン(以下、マーブラン)で代表取締役CEOを務める佐藤 辰哉氏に話を伺いました。


「和牛サプライチェーンの再構築」を掲げる同社は、今年3月にECサイトを開設し、脂の入り具合や産地ブランドとは異なる、新たな付加価値を持つ和牛ギフトを提供しています。


さらに佐藤氏は、付加価値の高い和牛ギフトの販売のみならず、もっと先を見据えていると語ります。マーブランが目指す食肉業界の未来とは、どのようなものなのでしょうか?


取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)

和田 翔 (ライター)   

 

佐藤 辰哉(さとう たつや)氏 略歴

1994年生まれ。京都府向日市出身。神戸大学工学部を卒業後、積水ハウスで建築に従事。のちコンサル会社で集客支援、人材戦略の立案に携わる。コロナ禍に遭った家業の食肉卸業を支えるためEC事業に着手し、単月1500万円の売上を達成。その後熟成・包装技術の開発を経て、自身のブランドである「MARBLANC」を立ち上げる。2024年3月「大阪トップランナー」採択。同月「アトツギ甲子園」優秀賞受賞。

 

2400億円の和牛ギフト市場に新たな付加価値を


生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、まずマーブランの事業内容を教えていただけますか?


佐藤 辰哉氏(以下、佐藤氏):マーブランは「和牛サプライチェーンの再構築」を目指すスタートアップです。現在は、ECサイトを通じた「和牛ギフト」の展開に取り組んでいます。


ライター 和田(以下、和田):自宅用や飲食店向けなどさまざまなシーンがある中で、なぜギフト用に特化しているのでしょうか?


佐藤氏:ギフト用の平均単価は自宅用と比べて150%、粗利は250%から300%に達します。マーケットサイズも非常に大きく、和牛ギフト単体で2,400億円規模の巨大な市場なんです。


和田:そこまで大きな規模の市場だとは知りませんでした!


佐藤氏:他方で、あるアンケートによると「実際にお肉をギフトで贈ったことがある人」の割合はわずか13.4%しかいませんでした。この数字にとどまっている要因は、お肉によって味のばらつきがあったり、消費期限が短かったり、といった点が挙げられます。


加えて、他のグルメやスイーツはおしゃれなパッケージの商品も多数あるのに、お肉のギフトはいまだに木箱に入れる形式が多くて、20~30数年前から変わっていない点も要因でしょう。つまり、現在の消費者ニーズと乖離しているのが、和牛ギフト業界の課題なんです。


和田:確かに挙げていただいた理由で、牛肉を選ばない場面は起こり得るように思います。


佐藤氏:そこで私たちは「おいしくて、新鮮で、ワクワクする」商品を開発し、提供しています。まず味に関しては、旨み成分を従来の4倍へと向上させる独自の熟成技法を確立しました。


また、特殊な包装技術を採用して、最大20日間の冷蔵保存が可能です。冷凍ではなく、冷蔵でおいしさを保てる点も大きなポイントです。


パッケージも従来のお肉とギフトとは一線を画すデザイン性の高いものにこだわっていて、受け取ったユーザーにワクワク感を抱いてもらえるように意識しています。


(画像提供:マーブラン)


和田:自宅で冷凍肉を上手に焼くのは難しいですから、冷蔵で長持ちするのはうれしいですね。最近は熟成肉という言葉を耳にすることが増えましたが、御社独自の熟成技法とはどのような方法なのでしょうか?


佐藤氏:専用の熟成庫を用い、牛の種類や肉の部位に応じた熟成期間を設定し、IoTも活用しながら、温度や湿度を小数点単位でコントロールしています。近ごろは業務用の冷蔵庫で寝かせる方法をよく目にしますが、それよりも細かな調整を施して、味のムラや特有の臭いを抑えつつ旨味を増幅させています。


(画像提供:マーブラン)


和田:熟成方法や調整方法を確立するに至るまで、どんな道のりがあったのでしょうか?


佐藤氏:まずは海外の文献を読み漁りながら情報を集めました。その後、熟成庫の開発メーカーへ肉のサンプルを送って、調整方法や肉の部位を変えながら何度もテストをして……。弊社独自の方法を確立するまでにかれこれ3年間かけ、費用で言えば合計1500万円を費やしました。


和田:それほどの歳月と費用がかかっているとは驚きです。手塩にかけて仕上げた熟成肉は、どのように販売しているのでしょうか?


佐藤氏:2023年11月にクラウドファンディングを通じた予約販売を実施しました。すると、当初の目標額30万円に対して約212万円(708%)の調達を達成でき、改めて市場のポテンシャルの高さを感じました。そして今年3月にはECサイトをオープンし、ブランドの認知度向上と拡販に取り組んでいます。


和田:クラウドファンディングの成果からも、高いニーズと期待感が伺えますね。今後の成長目標についてはどのように考えているのでしょうか?


佐藤氏:先ほど和牛ギフトの市場は2,400億円規模と触れました。ただ、グルメギフトの市場全体は4兆円規模の超巨大マーケットです。つまり、現状ではギフトの中で6%しか選ばれていない和牛ギフトのシェアが数%増えるだけでも、非常に大きな額が動く世界だと言えます。マーブランの展開を通じて、業界全体のボトムアップにも貢献する考えです。


「肉屋の後継ぎ」が自身のブランドを立ち上げた経緯


西山:起業の経緯についても伺います。もともと佐藤さんは食肉業界にかかわる仕事をしていたんですか?


佐藤氏:実は、家業が食肉の卸会社なんです。父の代で立ち上げた会社で、現在も京都に本拠を構えて営んでいます。ただ正直に言えば、当初は後を継ぐつもりは全くありませんでした。


和田:では、一度は食肉とは異なる業界に進んだんですか?


佐藤氏:大学を卒業してからは、住宅メーカーで建築図面を書く技術職をしていました。「建築業界で腕を磨き、ゆくゆくは経営にも携わりたい」と考えていたので、マーケティングや営業の知識を身につけるべく建築業界に特化したコンサルティング会社に転職しました。


和田:どんなきっかけで家業と同じ食肉業界と関わることになったのでしょうか?


佐藤氏:建築とコンサルタントの経験を生かした事業を立ち上げようと考えていたところ、コロナ禍に見舞われたんです。父の会社は主に飲食店向けの商売をしていたので、売り上げが激減して窮地に立たされました。そのタイミングで家業を手伝うことに決め、当時未着手だったEC販売事業の小売に取り組んだのが始まりです。


和田:コロナ禍で困難も多かったと思いますが、ECに取り組んでみていかがでしたか?


佐藤氏:実際に取り組みを進めると、初年度に単月売上1500万円を達成できるほどの大成功だったんです。そんな体験から業界のポテンシャルを強く感じ、徐々にのめり込んでいきました。


そして先ほど述べた熟成方法などの強みを確立してから、2023年3月にマーブランを立ち上げました。父の精肉卸会社からは資本的に独立していますが、今では「肉屋の後継ぎ」であることが自分のアイデンティティだと感じています。


グローバル展開も見据え、30年後の食肉業界を作る


和田:今後もECサイトの展開を拡大していく方針なのでしょうか?


佐藤氏:ブランディングや拡販に注力するのはもちろんですが、ただそれだけでは「お肉を上手に売る会社」でしかありません。私たちの目標はもっと先にあって、「和牛サプライチェーンの再構築」を通じて、30年後の食肉業界を作ることを目指しています。


和田:現在の食肉業界は働き手の不足など、さまざまな課題があると聞きます。御社が掲げている目標はそれらとも関連しているのでしょうか?


佐藤氏:はい、日本における肉牛の生産農家はここ10年で約2万件も減少しました。これは20年後には全ての農家が廃業するほどのペースです。廃業理由の80%以上が資金繰りの問題だと言われています。飼料が高騰して出荷すればするほど赤字になりかねない状況では、IoTを導入して効率化するなどの対策をとることすら難しいのが現状です。


この課題を解決するには、小売事業者が消費者に適正な価格で販売し、その利益を生産者に返していく仕組みが必要です。そこで私たちは、一定以上の価格を保証して生産者から牛肉を買い取るようにしています。


(画像提供:マーブラン)


和田:御社にとってみると、価格保障は仕入れコストの負担増加につながるようにも思うのですが、いかがでしょうか?


佐藤氏:目先の利益を削るとの考え方もできますが、長期的に見ればメリットが勝ると考えています。この先、生産農家の数が減少すること自体は避けられませんから、仕入先の確保は年を追うごとに難しくなるでしょう。そんな状況下でも生産者との関係を構築できていれば、高品質な和牛を安定して仕入れることが可能で、競合優位性につながると考えています。


和田:少し話は変わりますが、昨今では農家自身がECを立ち上げて販売する取り組みもよく見られます。そうした “6次産業化”は、御社の事業に影響するでしょうか?


佐藤氏:6次化はどんどん取り組んでいただいた方がいいと考えています。一方で、例えば、生産者の直販では売れない部位の肉を私たちが買い取り、熟成させて販売するような方法もあり得るでしょう。「餅は餅屋」と言うように、それぞれの得意・不得意は分かれていますから、課題感を共有しながら手を取って進んでいければと考えています。


和田:今後、和牛ギフトの提供以外にも取り組もうと考えていることがあれば、ぜひ教えてください。


佐藤氏:生産の透明性を高めながらグローバルに展開することが一つの目標です。もう一つ、実は将来的に生産者へと飼料を提供するメーカーになりたいとも考えています。そのためには「マーブランなら信頼できるな」と思っていただける関係性が大切になるでしょう。生産者とパートナーシップを築くことは、飼料メーカーを目指した取り組みにもつながっているんです。



(画像提供:マーブラン)


この取り組みが実現すれば、私たちは競合優位性を確保しつつ新しい収益機会を生み出し、生産者は経営の安定化と高品質な肉牛の育成ができ、そして消費者はおいしいお肉を味わえる。そんな仕組みを作ることができると考えています。


西山:今後の取り組みも応援しています。本日はありがとうございました!


 

取材を終えて

私たち消費者が高級な牛肉を選ぶ際、ついつい有名なブランドやサシの入り具合で決めてしまいがちです。「おいしい、新鮮、ワクワク」を提供するマーブランの取り組みは、これまでとは一味違った和牛の楽しみ方をもたらしてくれるかもしれません。家業の人脈やノウハウを活用しつつも、自分のブランドを育てるために未開拓の道を突き進む佐藤さんの姿勢からは非常に大きなエネルギーを感じました。(ライター 和田 翔)




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