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カフェやホテルがギャラリーに!アート作品と展示スペースのマッチング事業:MASIRO

  • 執筆者の写真: Yoko Yagi
    Yoko Yagi
  • 1月24日
  • 読了時間: 9分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、アーティストとスペースのマッチングサービスを運営する株式会社MASIRO の松崎圭佑(まつざき けいすけ)代表取締役にお話を伺いました。

取材・レポート:八木曜子(生態会ライター)

 

松崎圭佑(まつざき けいすけ)代表取締役 略歴

2001年生まれ。福岡出身。大学入学時から様々な事業の立ち上げに関わるも、自身のメンタル疾患の影響から生きる希望を失う。療養の一環でアートに触れたことをきっかけに業界に飛び込む。アーティストとして活動する中で日本のアートの浸透に疑問を抱く。2022年に前身団体MASIROを立ち上げ、現在取締役の角谷と出会い、2024年に株式会MASIROを設立。キャンパスベンチャーグランプリ大阪2023で優秀賞、UPDATE EARTHコンペティション2024でOPA賞受賞。同志社大学商学部4年生。

 

■新規事業づくりへの情熱からアートの世界へ


ライター八木(以下、八木)本日はありがとうございます。まずは、会社設立に至る経緯や背景についてお聞かせください。


松崎代表(以下松崎)はい。私は現在同志社大学商学部に在籍しており、新規事業を作ることに興味を持つ環境で育ちました。両親が投資家で、幼い頃から仕組みづくりや資産運用の話題が身近だったことも大きな影響を受けています。「お金や資源をどう動かし、価値を生み出すか」を学ぶ中で、自然と新しい事業を生み出すことに惹かれるようになりました。

 

 転機は大学2年生から3年生にかけて、メンタルダウン時期にアートに出会ったことです。それまではアートに全く興味がなかったのですが、あるアーティストの「一度自分で作品を作ってみたら?」という言葉がきっかけとなり、私自身が制作活動を始めました。現在も活動していますが、その経験を通じ、アートが持つ「未完成の美しさ」や「多様な解釈の可能性」に魅了されました。


 その一方で、多数のアート作品が日の目を見ずに倉庫に眠っている現状や、展示機会に乏しいアーティストの多さに気づきました。こうした課題に向き合いながら、「もっとアートを日常の中に溶け込ませる仕組みを作りたい」という思いが芽生えました。


 休学中には、アート体験型イベントやワークショップを開催し、その延長としてアート団体「MASIRO」を立ち上げました。そして2023年12月に、京都芸術大学を卒業した共同代表の角谷と共に株式会社MASIROを設立しました。


八木:共同代表の角谷さんとはどうやって知り合ったんですか?


松崎:僕が前進団体のMASIROで活動していた頃、彼は京都芸術大学でアートとビジネスを融合させる新領域(プロダクトデザイン学科クロステックデザインコース)を学んでいて、彼も別の団体を運営していました。彼と知り合い、アート業界の課題意識を共有する中で意気投合しました。今は、僕が主にビジネス全般の戦略設計や営業、企画立案を担当していて、角谷はアーティストとの調整や作品のマネジメント、展示運営など、現場に近い役割を担っています。


余剰作品を活用した新たなアート流通モデル


八木なるほど、角谷さんと明確に分業されているんですね。それでは御社の事業内容についてご説明お願いします。


松崎:株式会社MASIROの事業は、大きく分けて3つの領域に取り組んでいます。まず、主力の『LISAIL(リセイル)』事業では、アーティストの余剰作品をカフェやホテル、美容院といった空間に展示・販売する仕組みを提供しています。『LISAIL』とは「Life is Short. Art is Long.」の頭文字をとっていて、アートをどの時代でも全ての人に楽しんでもらう存在として名付けました。


 次に、メディア運営として『きみと美術館』のようなinstagramをメインとしたSNSを活用した発信活動で、アートをより多くの人に届ける仕組みを模索しています。そして、アートと新規事業を掛け合わせたオープンイノベーションにも取り組み、企業との協業を通じてアートの可能性を広げています。これらを通じて、アートをもっと身近で、価値あるものにしたいと考えています。


八木:なるほど。では現在、御社の主力事業である『LISAIL』の概要と、その仕組みについて教えていただけますか?


松崎:『LISAIL』は、アーティストの余剰作品をカフェやホテル、美容院などの商業空間に展示し、販売する仕組みを提供しています。このモデルは、アーティストが持て余している作品を効率的に販売できる場を作り、スペース提供者には予想外の収益源を提供することを目的としています。具体的には以下のようなプロセスで成り立っています。


LISAILの事業モデル
LISAILの事業モデル

 まず、 アーティストとの連携です。私たちは若手アーティストを中心に、作品を登録してもらっています。現在は約100名のアーティストが参加し、平面作品をメインに取り扱っています。東京、京都、福岡を中心としたアーティストが多いですが、将来的にはさらに多様な地域からの参加を目指しています。


 次に、スペース提供者とのマッチングです。ホテルやカフェ、美容院など、余剰空間を持つ施設と作品をマッチングします。たとえば、京都市内のあるカフェやホテルでは、地元の若手アーティストの絵画を飾ることで、「アートを楽しめる空間」としての新たなブランディングに成功しました。


 販売と収益モデルですが、展示された作品はQRコードを通じて作品の背景やストーリーを知ることができ、購入も簡単にできるようにしていて、オンライン販売が可能です。作品が売れると、アーティスト、スペース提供者、私たちの間で収益を分配します。また、スペース提供者には展示のコーディネート費用として4つの基本料金プランをご用意しています。


 『LISAIL』の仕組みは、アーティスト、スペース提供者、そして私たちMASIROの三者にそれぞれメリットを生み出せる点が特徴です。アーティストにとっては、倉庫に眠っている余剰作品が展示され、新しい販売機会につながるだけでなく、作品が人の目に触れることでモチベーションにもつながります。スペース提供者にとっては、例えばカフェや美容院などで作品を展示することで、お店のブランディングや予想外の収益につながるケースが多いです。我々MASIROとしては、この流通と販売の仕組みを通じてアートを日常に取り入れるという私たちの理念を実現できる。三者全員にとってポジティブな結果が生まれるような仕組みを目指しています。



八木:ユニークなモデルですね。アート業界には可能性があるとおっしゃっていましたが、どのようにお考えですか?


松崎:アート業界には独特の特徴があります。例えば、他業界のようにスケール化が難しいという点が挙げられます。アートは一つひとつの作品が持つ価値や背景が異なるため、画一的な扱いが難しい。さらに、アーティスト自身がどこで作品を売ればいいのか分からず、販売の機会を逃してしまうことも多い状況です。


八木:確かに販売機会が少ないことはイメージできますね。競合や参考にしたサービスなどはありますか?


松崎:直接的な競合と言えるサービスはあまり多くありません。アートはまだブルーオーシャンの領域だと感じています。ただ、私たちがビジネスモデルを考える際に参考にしたのは、流通業界や卸売業の仕組みです。商品の委託販売やスペースの活用方法など、他業界の成功事例を取り入れながら、アートの特性に合った形にカスタマイズしました。また、既存のギャラリーとは異なり、より日常的な場所でアートを楽しめる仕組みを構築している点で、他にはない独自性があると思います。


八木:たしかにギャラリーではなくカフェや美容院で楽しめるのは身近に感じられて画期的ですね。アーティストやスペース提供者の選定基準はありますか?


松崎:アーティストについては、展示場所の雰囲気やコンセプトに合うかどうかを重視しています。例えば、植物を多用したカフェには自然をテーマにした作品を、モダンな美容院には抽象的なデザインの作品を提案しています。スペース提供者については、展示に適した環境であることが最低条件です。具体的には、「アートを適切に評価できる空間」であることを重視しています。



■地方展開の壁とSNS発信の強化が鍵


八木:これまでに得られた反応はいかがですか?


松崎:これまでの反応は非常にポジティブです。例えば、ある美容院では、展示された作品をきっかけに顧客との会話が弾み、結果的にリピーターが増えたという声もいただいています。また、アーティストからは「作品が倉庫に眠るだけではなく、展示され評価されることでモチベーションが上がる」という感想も聞いています。現在20件ほど成約し、大口も数社成約していてこれを広げていくのが次のフェーズです。



八木:なるほど。では現在直面している課題についてお聞かせください。

松崎:課題は大きく2つあります。1つ目は地方展開の難しさ。現在は京都を拠点にしていますが、他地域で同じモデルを展開するには、各地域で事業を運営できる人材が必要です。フランチャイズモデルのように現地の人材を活用する仕組みを模索中です。


2つ目は、消費者向けの直接的な発信が不足している点です。SNSや新規メディアを通じて、もっと多くの人にアートの価値を届けることが必要だと感じています。


八木:それでは今後の展望について教えてください。


松崎:私達は日本一のアートディーラーになることを目指しています。具体的には『LISAIL』を全国で1万件成約させて、全国展開するのが目標です。また、アートとファッションの融合にも可能性を感じています。アートを「着る」ことで、さらに日常的なものとして楽しむ文化を広げたいと思っています。


 最終的には、会社理念の「日常にもっとアートを」の通り、アートをもっと社会に浸透させて、アーティストのキャリアを支援し、空間を通じてアートを生活の一部にすることで、アートビジネスの新しい可能性を切り開きたいと思っています。


八木:大きな可能性を感じますね。本日はお時間いただきありがとうございました。



会社住所のあるシェアハウス兼コワーキングスペースのEVER
会社住所のあるシェアハウス兼コワーキングスペースのEVER

 

取材を終えて

「プレイヤーが少ないアート市場はブルーオーシャン」と言い切る松崎CEO。ビジネス側、京都芸術大学出身の角谷共同代表はアート側と棲み分けながら、経営相談ができるシェアハウスという会社環境で磨かれた視点は、スタートアップとしての柔軟性と独創性に満ちていました。アート界隈のスタートアップが少ない中、未来を期待させる印象的な取材でした。(ライター八木曜子)

 

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