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  • 執筆者の写真濱本智義

iPS/ES細胞の培養促進で、再生医療の未来を切り開く:マトリクソーム

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回はiPS/ES細胞培養のための足場材の研究・販売等を行っている、株式会社マトリクソームの代表取締役、山本卓司(やまもとたくじ)さんにお話を伺いました。


取材:西山 裕子(生態会事務局長)、濱本智義(学生スタッフ)

レポート:濱本智義

 

代表取締役 山本卓司 氏


1975年11月兵庫生まれ。京都大学大学院農学研究科の修士課程を修了後、株式会社ニッピで研究員として勤務。そこでBSE検査キットの開発など様々な功績を残し、農林水産業賞を受賞。また、社会人として働きながら新潟大学農学研究科で博士号を取得する。その後、40歳で株式会社マトリクソームの社長に就任。


 

■低価格かつ高効率で培養を可能にする足場材「Matrix-511」


西山:まずは、事業概要を教えていただけませんか。


山本:私たちは、iPS細胞/ES細胞の培養に必要不可欠な足場材である「Matrix-511」の研究・販売を中心に事業を展開しています。「Matrix-511」は、当時困難だったiPS細胞/ES細胞の培養を、低価格かつ高効率で実現することに成功しました。同製品は、世界8カ国以上に販売チャネルを設けており、研究領域や臨床現場で幅広く導入させていただいております。また他にも、心筋細胞には「Matrix-211」、 血管内皮細胞には「Matrix-411」、 肝臓細胞には「Matrix-111」というように、各細胞の培養に適した足場材の研究・販売も行なっています。これらは効率的な誘導や維持培養にも応用可能で、一般的に難しいとされている心臓再生医療への応用も期待されています。

Matrix-511の現物

濱本:足場材というのは、どういったものなのでしょうか。


山本:一言でいうと、足場材は「培養のための土台」です。通常、細胞は何かとくっついていないと死んでしまいます。そのため、細胞を培養する際には、土台を作る必要があり、その土台が足場材にあたります。つまり、細胞の培養には足場材が必要不可欠というわけです。これまでiPS細胞/ES細胞を培養するための足場材は、一般的に高価であり、培養効率も良くありませんでしたが、大阪大学蛋白質研究所の関口教授と株式会社ニッピバイオマトリックス研究所との共同研究により、私たちは低価格かつ高効率で培養可能な足場材「iMatrix-511」の開発に成功しました。現在は、主に研究と臨床(再生医療)の現場で、研究者もしくは医療従事者の方々に利用されています。


iMatrix-511を使用した培養法と従来法との比較結果

西山:同じように足場材を販売している競合は、存在するのでしょうか。


山本:足場材(細胞外マトリックス)の市場は、参入企業が少ないブルーオーシャン市場です。というのも、細胞外マトリックスを研究する研究者は少なく、国内最大の細胞外マトリックス研究者団体である結合組織学会は、500人ほどの研究者で構成されています。また、構造的に複雑なため、合成の化学物質で補うにはほぼ不可能で、開発には長期の研究開発が必要になります。したがって、この市場は新規参入が非常に難しいマーケットであり、iPSの培養に用いられる足場材に関しては、我々の「iMatrix-511」がNo.1の市場シェアを誇ります。


濱本:開発には多大な時間と費用が必要で、他社が参入するのは困難なのですね。


西山:「iMatrix-511」の製造や、その品質管理はどうしているのですか。


山本:先述した通り、当社は商品の研究・販売を中心に行なっており、製造や品質管理の工程に関しては、株式会社ニッピに委託しています。また、当社の利益の一部を大阪大学の研究室へ研究資金として還元することで、基礎研究を進めてもらい、その研究をもとに応用開発研究を実施するなどしています。このように、開発から製造、そして営業・販売まで自社グループ内で完結しています。

西山:自社グループ内でサプライチェーンを構築している、スタートアップ企業は珍しいですね。


山本:そうですね。通常、足場材の製造には設備投資が必要で多くの費用がかかるのですが、ニッピはもともとコラーゲンなどの細胞外マトリックスの製造を生業としていたので、足場材を製造するための設備が整っていて、製造コストを大幅に削減することが可能でした。このように、「iMatrix-511」の商品化成功の背景には、ニッピと大阪大学の存在が大きく関わっています。



■産学連携のジョイントベンチャーから上場を目指す


西山:御社は、ニッピと大阪大学共同出資による、産学連携のジョイントベンチャーなのですよね?


山本:はい、そうです。2015年に、共同出資によって設立されました。そして2016年には第三者割当増資により、大阪大学VC、SMBCVCおよび株式会社ニッピから2.75億円を調達しました。現在は、私の他に取締役が4名、監査役が2名、従業員9名で経営しています。


濱本:山本さんは、ニッピ・大阪大学とどういったご関係なのでしょうか。


山本:私自身、ニッピで10年以上研究員をしていたことがあり、前身となる研究室では、私を中心に関口教授やOVCの関係者と共同で「iMatrix-511」に関連する研究を進めていました。現在も株式会社ニッピからの出向という形で、当社を任されています。


実際の取材の様子

西山:なるほど、そのような経緯があったのですね。研究員から社長になられたということで、大変なことも多いのではないのですか。


山本:初めて会社を経営する立場になるので、はじめの頃は大変なことも多かったのですが、組織の運営は学びも多くやりがいもあるので、楽しくやらせていただいています。


濱本:最終的には、上場を目指しているのですか。


山本:そうですね。2025年頃の上場を目指しています。しかしながら、一般的に親子上場は難しいと言われているので、上場するために独立性を担保すると同時に、ニッピに委託している製造部門をどう自社で担っていくのかというのが今後の課題になると思います。



■再生医療の進展と、それに伴う市場の拡大


濱本:山中教授がノーベル賞を受賞されたことで、iPS細胞/ES細胞が一躍有名になりましたが、実際のところどのくらいニーズがあるのでしょうか。


山本:正直、市場はまだ成熟しておらず、そこまで大きくありません。現在の利益のほとんどが「iMatrix-511」の販売で得た分です。iPS細胞/ES細胞以外の末端細胞の足場材として用いられる「iMatrix-211」、 「iMatrix-411」に関しては、まだニーズが少ない現状です。


同社が提供する商品の一覧

しかしながら、そのような現状のなか、同社の製品が移植手術の現場で実際に用いられたことがあります。京都大学でのパーキンソン病治療の際に、脳に移植する心筋細胞の培養に、臨床用グレードの「iMatrix-511」が利用されました。手術は大成功し、学会的に大きな注目を集めました。


パーキンソン病治療における移植実施についての記者会見(京都大学HPより)

このように、現在はまだiPS細胞を用いた再生医療が実施されることは少ないですが、今後再生医療の分野が発展していくにつれ、その他の末端の培養における需要が拡大し、それにともなってマーケットも拡大していくと考えられます。今後は、細胞外マトリックスの開発技術をコア資源としながら、様々な足場材の研究開発を進めていく予定です。


濱本:再生医療の今後と、マトリクソームさんの成長が楽しみですね!



 

取材を終えて:培養における「足場材」とは、パソコンにおける半導体のようなもので、細胞を培養するためには必要不可欠なものです。つまり、再生医療に関する研究や開発が進めば進むほど、市場は拡大していくと考えられ、その将来性は無限大であるように感じました。また、開発から製造・販売までを自社グループで担うことで、効率的なサプライチェーンを構築しているのも、同社の大きな強みとなっています。この取材で再生医療の最前線を目の当たりにし、これからの医療のさらなる進歩に大きな期待を抱きました。(学生スタッフ:濱本)







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