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  • 執筆者の写真橋尾 日登美

地域クリニックと大病院のCRM 誰でも信頼できる病院にかかれる医療体制へ

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、「医療者と共に「医療の仕組み」をよくする」をミッションに、医療DX・医療×Web、中でも地域医療連携に特化した事業を展開するメディグル株式会社にお話を伺いました。地域医療連携の改善に切り込むその動機は、日本の医療制度が持つ大きな課題への挑戦でした。事業に人生をかける意気込みを持ったエピソードは、日本に住み医療を受ける可能性のある、すべての人に届けたい言葉が詰まっています。


取材・レポート:橋尾日登美(生態会 事務局)



 

代表取締役 中嶋 秀樹さん経歴


1982年大阪生まれ。関西医療大学を卒業後、西洋と東洋医学を取り入れたイタリアンレストランの立ち上げや会社の経営など数社を経た後、医療に携わる業種を経験。採用やWebのコンサルティング営業の側面から医療業界を支援した。総合病院を専門にホームページ制作を手掛けるリタワークスに入社後、取締役、病院部門の新規事業開発を経て、メディグルを設立して代表へ就任。

 

生態会 橋尾(以下、橋尾):今日はよろしくお願いします。まずは、事業概要を教えてください。


代表取締役 中嶋 秀樹さん(以下、中嶋):大きなテーマとして信頼できる病院との出会いを創出する」を掲げ、地域医療連携に特化したサービスを展開しています。領域は医療DXで、仕組み化・効率化のアプローチから、医療の持続可能な未来に貢献して行きたいと考えています。

まずは超・アナログでレガシーな医療の実務を変えるべく「メディグルCRM」というツールの提供から事業をスタートしています。


橋尾:地域医療連携、あまり聞きなれない言葉です。


中嶋:そうですよね、構造から説明します。

医療体制は国の方針によって、役割分担による効率化を推進しています。それにより、地域のクリニックと基幹病院は専門性や治療領域で役割がすみ分けされており、患者の状態によって紹介し合う体制が築かれています。


橋尾:まずは小規模のクリニックで受診して、重篤な場合大学病院を紹介してもらうような、あれですね。



中嶋:そうです。そして、基幹病院で症状が落ち着いた場合はまた地域のクリニックに戻ってきます。この構造が地域医療連携(厳密には病診連携)です。


この構造って、基幹病院とクリニックが持ちつ持たれつの関係になる仕組みなんです。互いの病院の役割や、サイズ・利益構造に見合った患者さんを紹介し合っているんですよね。


これは誤解を恐れず、一般企業に置き換えて例えると、お互いが営業代理店として機能するような関係性になっているんです。ここに注目しました。


橋尾:送客し合っている仕組みと言えるわけですね。



基幹病院とクリニックの「営業代理店関係」に着目、医療の営業DX


中嶋:そしてここからが医療業界あるあるなんですが、治療の方法だとか医療機器は研究開発積極的に行われるのですが、運用が超・アナログでレガシーなんです。紙はもちろん、電話……。地域医療連携だけで見ると、体感で9割FAXや電話を使って連絡を取り合っています。


橋尾:久しぶりにFAXの存在を耳にしました。


中嶋:手法がレガシーなだけではなく、情報管理の煩雑さにも課題がありました。

基幹病院とクリニックは、お互いを紹介先としてリスト化し、適切な紹介ができるよう管理しています。内容は、診られる内容や設備情報、過去の受け入れ履歴などですね。つまり、顧客管理です。何かあったら当院にご紹介ください、という営業活動なんかもしています。

ここがExcelやメモのオンパレードだったんです。


「メディグルCRM」では顧客リストや取引データを取り込めば、地域医療連携に関する情報をサクッと一元管理でき、データの集計も各段に楽になります。これまで1~2日かけて集計していたのが30分程度まで削減できたなどのお声もいただきました。


現在、日本の基幹病院の10%にあたる、260ほどの病院(2023年6月時点)に導入していただいています。ひとつの基幹病院につき、多くのクリニックが連携しているため、260の病院から大きく全国に広がりが期待できます。地域医療連携のDX化の、一歩目の入り込みに成功している状態です。


橋尾:DX化の「一歩目」ということは、この先の展開があるのですね。


中嶋:はい。このCRMは、あくまで僕たちはデータ集めやきっかけづくりとして考えています。医療全体の仕組みを変えていくのが本来の目的で、ここからが次のステージです。


CRMを通して基幹病院とのリレーションを深めていくことに軸に置きつつ、2023年秋には新サービス「メディグル予約」を展開していきます。


現在、基幹病院には非常に多くの紹介患者さんが来院されます。紹介患者さんの予約業務の大半が電話やFAXで行われています。この部分をDXしないと、効率化は語れません。


誰しもの命にかかわる医療のひずみを、信頼の可視化で解決できる未来へ


橋尾:事業の概要と先の展開をお伺いしました。この事業を手掛けることになったのはどのような経緯なのでしょうか。


中嶋:僕はもともと、医療×IT・Webの分野でセールスとプロダクト開発を15年ほど経験しています。その中で、延べ350以上の総合病院とお取引がありました。


その中でまず、少子高齢化による医療の負担増や複雑化を体感し、限界がすぐそこに来ているのを感じていました、日本の医療はコロナ禍以前から、医療従事者の頑張りでなんとか持っている状態です。


でもここ15年で地域医療連携の重要性は高まっているのに、大きな変化は見えていない。民間からアプローチして変えられる可能性があるのであれば、貢献したいと思いました。でも僕たちは臨床の専門家ではないので、それなら仕組みからアプローチしよう、と考えました。



橋尾:大きな社会課題ですよね。


中嶋:とは言え、人生をかけて本気やりたいと思ったきっかけはまた別にあります。


病院の広報支援の一環で、よく医師にインタビューさせて頂くのですが、ある時地域医療連携に関する取り組みを取材させていただいたんです。その時に大学病院の総合診療科の先生からうかがった話が衝撃的で。


※総合診療科…何か特定の臓器を対象とするのではなく、患者さんが抱える健康問題について幅広く対応する診療科。どの科にかかれば良いのか不明な際にも受診する。


総合診療は原因が特定できないけど不調だ、という人を全体的に診てもらえる場所なので、地域のクリニックからよろず相談のような形で、患者さんが紹介されることも多い科なんですよね。


そこで先生が出会う患者さんの中には、手遅れの状態で紹介されることも多いと。はじめまして、の後に亡くなる時にどうしたいか、希望を聞かなくてはならないほど、病状が悪化しているのだと。


患者さんが検査や病院を嫌がるという事情ももちろんありますし、きちんと診療に向き合っておられる先生が大半です。

でも事実、先生は言葉を濁していましたが、残念ながら向き合いきれていないケースがある、ということなんです。年に1回ちゃんと腹診などしっかり診ていれば気付けたはず、というケースが多々とのことでした。


橋尾:これはちょっと……ショッキングな話ですね。


中嶋:でしょう。

もし、自分自身や近しい人がそんな目に遭ってしまったらと思うと。だけど、私自身も15年医療業界に関わっていながら、近所のクリニックで良い先生にかかろうと思っても、どこに行けばいいかはわからない。生活導線上で便利なクリニックを、要は立地でどうしても選んでしまうんです。

でも、その選択によって人生が大きく変わってしまう可能性がある。


これを聞いて、感じていたあらゆる課題がリンクして、地域医療連携に真剣に取り組もうと、人生をかけてコミットしようと決めました。



橋尾:この問題は、地域医療連携を強化することで解決が図れるのでしょうか?


中嶋:仕組化することで改善に向かうことができるのではと思っています。


私たちが提供しているCRMと予約システムに蓄積したデータが、病院とクリニックの信頼の証になり得るのではと考えました。


当然医療者の方々は患者さんを大切にしていますし、安心して任せられる医療機関に患者さんを紹介したいと思っています。。つまり、基幹病院とクリニック間の患者紹介の実数は医療者同士の信用のあわられとも言えるんですよね。 もちろん、それがすべてではないですが、指標の1つには確実になり得ると思います。


これにより、新しい病院の探し方ができます。

既存の病院の口コミが集まるようなポータルサイトでは、立地や待遇など、本質的でないものしか指標になっていませんでした。


橋尾:確かに、立地や先生の対応は医療のレベルとは関連性が薄いですよね。


中嶋:それが、評価の根拠に医療者から生まれたデータが絡みます。基幹病院とクリニックの間で紹介が頻繁に発生している医療機関は誠実な診療をしているところが多いのでは、という独自のアルゴリズムを持てるんです。


これにより、ちゃんと患者さんに向き合って診療してる人たちに自然と光が当たるという、適正な医療経済が回ります。


橋尾:すでに競合も多い予約システムをなぜ次の一手として選ばれたのか、よく分かりました。


中嶋:本質的な評価を基に病院を探せる仕組みを社会実装し、受診体験に困る人を減らすというのが、私たちの最終的な目標です。これが仕組みを変えるってことなんです。

そうすると誰もが医療に迷わないで済み、医療費の削減につながります。


私たちのミッションは「医療者と共に「医療の仕組み」をよくする」ビジョンが「医療を起点に安心して暮らせる社会を実現する」です。


医療者のアクションから生まれたデータを基に、いい医療に出会える仕組みを皆が使える世界を目指します。



 

取材を終えて


地域のクリニックから大病院を紹介される地域医療連携(病病連携,病診連携)。この構造は、医師個人の診療方針・技術、病院情報の更新不足など少しのひずみの発生で、紹介遅れや適切な連携不足など、命を危険に脅かす危ういものとのこと。CRM導入でデータを蓄積することで、信頼の証である紹介数が可視化され『良い病院』が残り、業界そのものが最適化されていきます。同社は、営業先の管理と効率化、口コミのストックなど他業界であれば当たり前の仕組みを、医療に投下しようとしています。もし紹介が遅れるような事態が自身や大切な人だったら…と、課題の重大さを感じると同時に期待を強く持つ取材でした。(スタッフ 橋尾 日登美)


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