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ディスレクシア支援をワンストップで!個別ケアから標準教育インフラを目指す:Nanka

執筆者の写真: Yoko Yagi
Yoko Yagi
12 分前
読了時間: 10分

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、読み書き困難児童向けの学習支援Webアプリ「もじソナ」を提供する株式会社Nankaの森分 啓太代表取締役と平野 孝博取締役にお話を伺いました。


取材・レポート:大洞静枝(生態会事務局)、八木曜子(生態会ライター)


■森分 啓太(もりわけ けいた)代表取締役 略歴

1986年生まれ、岡山出身。大学院で人工知能を専攻し、2011年にNTTコミュニケーションズ株式会社に入社。約10年間にわたり大型法人向けSI案件のエンジニアとして活躍。提案から設計、構築、運用まで一貫して担当し、システム開発の全プロセスに精通。2025年6月にNTTドコモグループの新規事業創出プログラム「docomo STARTUP」を通じて株式会社Nankaとして平野氏、技術の和田氏ら3名でスピンアウトし、「読み書き困難が社会的困難にならない未来をつくる」ことをミッションに掲げて読み書き困難者(ディスレクシア)向けの学習支援サービス「もじソナ」 の開発・展開を行なう。


■平野 孝博(ひらの たかひろ)取締役 略歴

1978年生まれ、愛知出身。大阪外国語大学卒業後、2001年にNTTドコモ入社。マーケティング、国際事業、経営企画を歴任。2025年6月に森分氏とともに株式会社Nankaを共同創業し CFO/COO就任、現在に至る。


ドコモから独立の原点は同僚の告白


生態会 大洞(以下 大洞):本日はよろしくお願いします。まずは起業経緯から教えていただけますか?


代表取締役 森分 啓太氏(以下、森分氏):はい。株式会社Nankaは私とCOOの平野、CTOの和田の3名で2025年3月に設立し、同年6月にスピンアウトしました。NTTドコモの「docomo STARTUP」というプログラムを活用して独立した企業としては、私たちが7社目になります。


始まりはNTTドコモ時代の新規事業コミュニティにいた同僚が「自分はディスレクシア(読み書き困難)なんだ」とカミングアウトしたことです。具体的な困りごとを聞く中で、「この課題をテクノロジーで解決できないか」とプロジェクトを立ち上げました。

代表取締役 森分 啓太氏
代表取締役 森分 啓太氏
取締役 平野 孝博氏
取締役 平野 孝博氏

ただ、この事業開発を進める中で、多くの当事者やご家族の声を聞くうちに、自分自身にとっても衝撃的な発見がありました。実は、私自身も当事者だったということに、大人になって初めて気づいたんです。


私は文字を読めるし書くこともできますが、読むための脳の疲労度が人一倍高かったんです。小学校から中学受験くらいの文章量であれば持ち前の知能や工夫でカバーできていましたが、高校、大学、大人になるにつれて文字量が膨大になると、どうしても対応が難しくなり、脳が極端に疲弊していました。それがディスレクシアの特性の一つだということに気がつきました。


私たちは2023年からサービス開発に取り組んできましたが、2025年あたりからAIやテクノロジーの発達によってOCRや読み上げの精度、それに料金面も含めて、いろいろな条件が整って、一般に普及させられるタイミングになったんですよね。


私は広島大学大学院で人工知能を専攻し、2011年にNTTコミュニケーションズに入社してから10年間にわたり、大型法人向けSI案件のエンジニアとしてシステム開発の全プロセスに関わってきました。そんなキャリアを積んできた自分が、テクノロジーによって解決できるタイミングに直面し、「自分がこれまでエンジニアとして歩んできたのは、まさにこの課題を解決するためだったのではないか」という強い使命感がこみ上げてきたんです。


知能に問題はないのに評価されないディスレクシア


大洞:森分さんのエンジニアとしての経験とご自身の特性が、一つの大きなパズルとして組み合わさった瞬間ですね。そもそもディスレクシアとは、具体的にどういった状態を指すのでしょうか。


森分:一番重要な大前提は、知能には全く問題がないという点です。それなのに脳の特性によって、文字を目で見てそれを音に変換する処理がスムーズに行えません。私たちはよく「一文字一文字が暗号になっていて、それを一生懸命解読している感覚」と表現します。定型発達の人であれば文章をパッと見た瞬間に自然と単語や意味が頭に入ってきますが、読み書き困難を抱える子どもたちは、ものすごいエネルギーを使って「えーっと、この文字は『あ』で、次は『さ』で……」と脳内で一文字ずつ解読しているんです。


そのため、テストの問題を解く以前に文章を読んで理解する段階で脳のリソースを使い果たし、疲れ果ててしまいます。結果として、問題を最後まで読み終える前に時間切れになり、本当は答えられるのに白紙で提出せざるを得ない事態が繰り返されます。


大洞:知能や考える力は十分にあるのに、文字を解読するという手段の部分でつまずき、正当に評価されないのは残念ですね。


森分:そうなんです。それを見た周囲の大人からはやる気がない、努力が足りない、と誤解されて怒られてしまう。子ども自身も、自分は頭が悪いんだ、どうせやっても無駄だ、と思い込み、自己肯定感が極端に下がっていきます。これが引き金となって不登校になってしまったり、本来なら高い能力を持っているのに進路を諦めざるを得なくなってしまう子どもたちがたくさんいます。こういった深刻な社会的困難が、クラスの中に潜んでいるのです。


ライター八木(以下、八木):実際に、そのような困難を抱えている子どもたちはどれくらい存在するのでしょうか。


森分:グラデーションはありますが、通常の40人学級に2〜3人(約8%)は存在すると言われています。日本全体で見れば子どもだけで100万人、自分が当事者だと気づかずに大人になった方を含めると1000万人以上いると推定されている、極めて身近で大きな課題です。


日本語に即した独自アルゴリズムと学習ワンストップ

大洞:その壁を取り払うために開発されたのが、AI読み書き支援Webアプリ「もじソナ」ですね。具体的にどのような仕組みなのか、教えていただけますか?


平野:はい。「もじソナ」はタブレットのブラウザ上で動作するWebアプリです。最大の特徴は、教材の取り込みから読み上げ、回答、そして学校への提出までの学習フロー全体をワンストップでサポートする点にあります。

「もじソナ」のTOP画面
「もじソナ」のTOP画面

従来のアプリやICT支援は、読み上げだけをするツールや文字を拡大するだけのツールといった個別パーツの機能に留まっていました。しかし、実際の教育現場や子どもの宿題では、教材を読んで、自分で考えて答えを書き、それを先生に提出して初めて評価されます。この一連のフローがデジタルで一気通貫に繋がっていなければ、結局は子どもも先生も使いこなせません。


大洞:確かに、途中でアプリを切り替えてPDFを保存して……なんて、小学生にはできませんね。それを一つのアプリで完結させたのですね。


平野:はい。まず、手元にある紙の教材やプリントをタブレットのカメラで撮影して取り込みます。ここで私たちの技術の核が活きてきます。OCRの文字起こしや音声合成といった基礎技術自体は、AIの発展によってコモディティ化してきているのですが、それらをそのまま日本の学校教材に適用すると、日本語特有の縦書きと横書きの混在、漢字・ひらがな・カタカナの入り乱れ、そして何よりルビ(ふりがな)があることでレイアウトが崩れ、おかしな順序で読み上げられてしまうんです。


そこで、CTOの和田を中心に、日本語特有の複雑なレイアウトを精度高く識別し、読み上げる独自アルゴリズムを開発しました。独立のタイミングから約10カ月間ひたすら開発を続け、今年の4月にサービスリリースに漕ぎ着けました。取り込んだ教材は、指でタップした一文だけを読み上げたり、読み上げ速度を子どもに合わせて自在に変更したりできます。


「もじソナ」画面
「もじソナ」画面

大洞:読み上げるだけではなく書く部分や回答の作成支援も非常に充実していますね。


森分:はい。鉛筆で文字を書くこと自体に極度な疲労感を感じる子どものために、複数の入力方法を用意しています。通常のキーボード入力やフリック入力に加え、非常に精度の高い音声入力に対応しています。マイクに向かって言葉を発するだけで、長い回答文も一瞬でテキスト化されて解答欄に収まります。他にも、自分の名前をあらかじめ登録しておいてワンタップで貼り付けられる名前スタンプや、選択肢を指で丸く囲むだけで回答できる丸付け機能、マーカー機能なども搭載しています。そして最後に、回答を書き込んだプリントをPDFとして出力し、そのまま先生に提出できます。


八木:なるほど。これによって、これまで課題をやりたくても書けなくて提出できなかった子どもたちが、自分の力で課題を終わらせて提出し、正当な評価を得られるようになるわけですね。


森分:その通りです。ただの便利ツールではなく、提出と評価という教育現場の最も重要なプロセスに直結している点。これが、他には真似できない「もじソナ」だけの絶対的な強みです。


大洞:現在、すでに多くの小中学校で実証実験や利用が行われているとのことですが、実際の教室での使われ方を教えていただけますか。


平野:全国30校以上で実施中ですが、象徴的なのが名古屋市の小学3年生の事例です。先生が「紙でも『もじソナ』でも、やりやすい方法を選んでね」と伝えると、紙に鉛筆で書く子と、タブレットで音声を聞きながら入力する子が隣り合って授業を受けます。特別な支援という区別なく、自然に学び方の選択肢が共存するインクルーシブな環境が生まれています。結果、この小学校では「もじソナ」利用者が約6割に達しました。


大洞:クラスの半分以上ですね!なぜそこまで広がったのでしょうか。


平野:当初はディスレクシアのお子さんを想定していましたが、耳から聞く方が理解しやすい聴覚優位の子や、日本語に不慣れな外国ルーツのお子さんにも効果的だったからです。結果、テストで一桁だった子が満点を取ったという劇的な変化も起きています。




合理的配慮は学校に標準装備されるスロープであるべき


大洞:近年、教育現場でも「合理的配慮」という言葉が盛んに叫ばれるようになっていますね。


森分:今、学校は非常に大きな転換期を迎えています。2024年4月の障害者差別解消法の改正により合理的配慮が民間でも法的義務となり、文部科学省も最初から全員が学びやすい環境を整える「基礎的環境整備」を推奨しています。


これは階段の横にあるスロープと同じです。車椅子の生徒が来たときだけ都度スロープを出して個別対応するのではなく、最初から玄関に常設しておけば、怪我をした人やベビーカーを押す人も自由に使えますよね。「もじソナ」も同様に全端末へ標準で入れておけば、子どもたちは体調や特性に合わせて当たり前の選択肢として使えます。


大洞:自分だけ特別扱いされて恥ずかしいというような心理的ハードルもなくなりますね。


平野:そうなんです。そのため、自治体や学校単位で導入しやすい「学校モデル」を来年度リリース予定です。すでに一部の教育委員会とは契約を結び、自治体側の費用負担によって実際の学校現場で導入が始まっている事例も出てきています。


デジタル教科書の波に乗り、2030年の教育インフラへ


八木:これから目指すビジョンについてお聞かせください。

森分:大きく3つの柱で事業を展開をしていきます。


1つ目は教材会社とのアライアンスとプラットフォーム化です。2030年のデジタル教科書本格導入に向け、音声教材を直接購入・利用できるマーケットプレイスの構築を目指します。


2つ目は多言語対応によるグローバル展開です。現在も対応している英語に加え、多言語エンジンの開発を進め、国内の外国ルーツの子どもから世界中の読み書きに困難を抱える人々まで届けたいと考えています。


3つ目は専門機関との連携による信頼性の維持です。専門医や大学の第一人者の先生方と共同研究や監修でタッグを組み、特許も取得しながら科学的エビデンスに基づくプロダクト開発を行っています。


大洞:強力な応援団と確かな技術力が成長を支えているのですね。


森分:今、私たちは歴史上初めて、テクノロジーが教育現場の障壁を完全に乗り越えられる時代に立っています。1人1台のタブレット端末があり、裏側には世界最高水準のAIがある。あとは、この「もじソナ」というスロープを、日本全国、そして世界中の教室に届けるだけです。


大洞:ありがとうございました。これからの挑戦を、心から応援しております!


生態会のコメント

ディスレクシアとは知能に問題はないものの、脳の特性により文字の読み書き(音と文字の連動)に特化した困難を抱える発達障害で日本人の人口の7〜8%が該当すると言われています。自身も特性を持つ森分CEOがNTTドコモの新規事業創出プログラムで同僚の当事者課題に直面したことから開発を開始。既存の枠組みを超えて迅速に社会実装するため、平野氏や技術の和田氏らと共に出資を受けスピンアウトしました。大学院で人工知能を専攻し、大型SI案件を率いてきた同氏の「このためにキャリアを積んできたのではないか」という強い言葉に教育現場を劇的に変える可能性を感じました。 (ライター八木曜子)




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