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  • 執筆者の写真Seitaikai

薬剤師不足の薬局とワーケーションをしたい薬剤師とのマッチング:NEWRONの「旅する薬剤師」

更新日:2022年5月26日

関西スタートアップレポートで紹介している、注目の起業家たち。今回は、都心薬剤師と地方薬局のマッチングコミュニティ運営や、薬学研究を活用したヘルシーな食品開発を中心に幅広く事業を展開する、NEWRON株式会社の代表取締役、西井 香織(にしい かおり)さんにお話を伺いました。


取材・レポート:垣端 たくみ(生態会 事務局)


 

西井氏 略歴

1992年生まれ。近畿大学薬学部卒業。6年生時に、薬剤師になるという選択肢しかない薬学部のキャリア選択に違和感を感じ、2年休学して上京。休学中の2017年に起業し、復学後2019年に薬学部を卒業し、薬剤師免許を取得。


2021年1月に「旅する薬剤師」事業をスタート。大学にてビジネスデザインの講師や、大阪府堺市のインキュベーション施設にて若手の起業家育成アドバイザーを務めている。​


 


生態会 垣端(以下、垣端):この度は取材にご対応いただきありがとうございます。まずは、御社の事業概要を教えていただけますか

NEWRON 西井香織氏(以下、西井氏):NEWRON株式会社では、薬剤師のワークシェアサービス「旅する薬剤師」や、薬学研究を応用したヘルシースイーツの開発をする「Healthy & Lab.を運営しています。他にも、企業のアイデア人材の育成研修や、合同企業説明会でのワークショップを手がけています。

垣端:まずは、「旅する薬剤師」について、詳しくお伺いできますでしょうか。

「旅する薬剤師」ロゴ

西井:簡単に言うと、地方の薬局に都心の薬剤師が短期間働きに行くサービスです。地方の薬剤師不足解消と、薬剤師のウェルビーイングな働き方の実現を目指します。例えば、薬剤師には女性の方が多く、産休・育休に入ると1年くらい休んでしまいます。薬局としても、来週から欠員が出るから他の薬剤師に来てほしいなどのニーズが生まれます。その薬局に、ワーケーションをしたい都心の薬剤師が働きに行くという流れです。



「旅する薬剤師」サービス概要

垣端:薬剤師や薬局は、具体的にどのようにサービスを利用するのでしょうか。

西井:薬局側は、採用する前に薬剤師と面談ができます。まずは、「旅する薬剤師」を通じて、薬局が旅をしながら働くことに関心のある薬剤師へ募集をかけます(業務期間や給料など)。エントリーがあった薬剤師の履歴書を確認し、選考に進みます。ビデオ会議ツールZOOMを利用して、薬剤師と面談の上、問題がなければ正式にオファー。旅する薬剤師が実際に薬局に行き、業務を開始します。薬局は薬剤師と業務委託契約を結んでいただき、直接報酬をお支払してもらいます。

垣端:事前に面談できるのが、派遣薬剤師と異なる点ですね。薬局の利用料はいくらでしょうか。また、導入実績についても教えてください。

西井:薬剤師1人あたり月額7万円で採用可能です(2022年1月現在)。

2021年1月5日現在では222名の薬剤師が登録し、富山県と沖縄県を含む9県9店舗の薬局で導入済みです。女性活躍が推進される昨今なので、時流にもあっているかと思います。


導入済み薬局(長崎県平戸)

垣端:「旅する薬剤師」を開始したきっかけは、薬剤師さんから相談を受けたからですか?


西井:いえ、地方創生をしたいと思ったのがきっかけです。地方の関係人口をどう作ろうかと思案していたところ、地方では薬剤師が不足していることがわかりました。また、薬剤師もずっと同じ環境で働くのは少し退屈で、環境がよくない職場もあります。薬剤師が旅感覚で働きに出て、リフレッシュしながら地域の人と関わることは、お互いにメリットがあると感じました。

今もワーケーションという言葉が頻繁に飛び交いますよね。ワーケーションはどこでもできる仕事をする人が多く、現地の方との交流もないので、地域になかなか根付きません。しかし、薬剤師は現地でしか仕事ができず、現地人との交流もあるので、関係人口の増加にも繋がります。私たちは、そういった仕事を”ジョブケーション”と呼んでいます。

垣端:ジョブケーション、素敵な言葉ですね。薬剤師も薬局の方やお客さん以外とは交流しづらいと思いますが、どのように促しているのでしょうか。

西井:「旅する薬剤師」のこだわりでもあるのですが、私が現地コミュニティと薬剤師のハブになっています。薬剤師も薬局関係者以外の接点が少ない。そのため、私が現地の人と繋がれるコミュニティをつくって、そこに薬剤師が入ってもらってます。私が頻繁に現地に通っている理由は、コミュニティづくりのためです。

垣端:ありがとうございます。次に、「Healthy&Lab.」の事業について教えていただけますか。


西井:「Healthy&Lab.」は、美味しくてヘルシーを叶える研究所として、薬学研究を食品開発に生かし予防医療食開発の発展に寄与することを目的に設立しました。食品メーカーとコラボし、美味しいうえに健康的な食品の企画開発を行っています。また、賞味期限が短くなってしまいがちなヘルシー食品を新鮮なまま顧客までお届けするために、受注販売専用のECプラットフォームも運営しています。「体に良いものは不味い」という常識を覆すべく、研究開発に挑戦しています。


「Healthy&Lab.」で手がける菊芋フロランタン(百貨店での販売は終了)

私たちは様々なヘルシースイーツを開発しています。中でも、菊芋フロランタンには、腸内環境の改善が期待されている食物繊維「イヌリン」を豊富に含んだ菊芋を活用しています。自己免疫を上げる方法として「腸活」が注目されている昨今の状況に加え、食後血糖値の急上昇を招きやすい白砂糖を使わず、小麦粉の代わりに米粉を使用することでグルテンフリーでヘルシーなスイーツを目指しました。


垣端:血糖値の急上昇を抑えつつ、食べた時にはっきりと甘味を感じられることが素晴らしいですね。何かのエビデンスに基づいて開発されているのでしょうか。

右:多賀 淳 教授(近畿大学 薬学部)

西井:共同でレシピ開発をしている多賀淳先生は、糖尿病を改善するため素材を研究しています。特にメープルシロップの研究に注力されており、メープルシロップの中の「メープルビオース」という成分を糖尿病ラットに使ったところ、血糖値の上昇を半分に抑える効果があると発見された先生です。多賀先生は産学連携で商品開発をするのが非常に上手で、多大なるご支援をいただいております。


垣端:ヘルシースイーツ事業を始められたきっかけは何ですか?


西井:自分自身の原体験です。幼少期に太っていたことでいじめられていたことがありました。悔しさと反骨心でダイエットを決意し成功しました。その結果、自分の人生が好転したので、食事や健康で悩む人の力になりたいと思ったのがきっかけです。


垣端:「Healthy&Lab.」の事業において、何か課題はありますか?


西井:健康に興味のない人の日常にヘルシースイーツを取り入れてもらうのは難しいと考えています。危機感がないので。そのため、まずはダイエットしたい方に手に取っていただくようなコンセプトにしています。甘いものを食べた後の血糖値の急上昇と急降下により、脂肪が蓄えられやすくなります。それを抑えるほうがダイエットにも良いといえます。血糖値が上昇するとインスリンが分泌され、血糖が細胞に取り込まれるので、血糖値が上昇しにくいスイーツを開発しました。 垣端:資金調達のご意向はありますか?


西井:今はありません。資金が必要な事業をしていないので。しかし、資本が入ることで販路が拡大することが前提になっているような資金調達や提携であれば前向きに進めたいです。「旅する薬剤師」の事業は資金調達のお話をよくされたりするのですが、今はコストをかけずにできており、調達は当分必要ないです。

垣端:他にも、企業のアイデア人材の育成研修や、合同企業説明会でのワークショップを手がけておられると伺いました。特に集中したい事業は何ですか?


西井:自分の原体験に関わるので、ヘルシーに関わる事業です。小売は一番儲からないとわかっていますが、一番関心が高いです。アイデアソンは現時点でも好評なのですが、自分が成功した後にさらに効果を発揮すると信じています。2022年は「旅する薬剤師」を伸ばしつつ、開発中のヘルシースイーツの拡大にも努めたいです。


垣端:本日は貴重なお話、ありがとうございました!


 

取材を終えて

インタビュー直後の西井氏

1を10に育てるよりも、0から1の創る方が得意と語る西井氏。


大阪府堺市を含む行政のインキュベーション事業で起業家育成アドバイザーを務めるほど、豊富な経験の持ち主です。


また、薬膳菓子事業はまだまだ試行錯誤の最中です。通常のスイーツと比較して大量生産もしづらく、製造コストがかかる一方、多くの人々に美味しくて健康になれる食べ物を届けたいという情熱も伝わりました。


今後も、西井氏のミッションに共感してくれる支援者との出会いを提供していく所存です(事務局・垣端)​




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