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血管再生の幹細胞発見で、難治性疾患に挑む現役医師。阪大から世界へ!:リバスキュラーバイオ

執筆者の写真: 和田 翔和田 翔


関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回はリバスキュラーバイオ株式会社で代表取締役社長を務める大森一生氏に話を伺いました。


大阪大学発の同社は、世界初の発見である「血管内皮幹細胞」を用いた再生医療の実用化に取り組んでいます。人体の血管系の95%以上を占める微小血管に対する根治療法が存在しない現状に対し、新たなブレークスルーをもたらすべく日夜奮闘中です。


取材・レポート:西山裕子(生態会 事務局長)

和田翔    (ライター)

 

大森一生(おおもりかずお)氏 略歴

1983年生まれ。奈良県出身。奈良県立医科大学 卒業(M.D.)、大阪大学大学院 医学系研究科 博士課程修了(Ph.D.)。糖尿病などの専門医として約10年のキャリアがある。将来の開業を見据えて経営大学院で学んだのを機に、大阪大学微生物病研究所で所長を務める髙倉伸幸教授と出会い、同氏による世界初の発見「血管内皮幹細胞」を応用した治療の事業化を持ちかけられる。高い潜在性を感じ、自身が医師として抱えていた「難病に苦しむ患者に薬を届けたい」との思いを実現すべく、共同創業に至る。

 

世界初の発見「血管内皮幹細胞」で再生医療に変革を


生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。早速、御社が取り組む事業について教えてください。


血管治療の課題や解決策について、わかりやすく解説していただきました。
血管治療の課題や解決策について、わかりやすく解説していただきました。

大森一生氏(以下、大森氏):「血管内皮幹細胞」を用いた再生医療の実用化に取り組んでいます。順を追って説明しますと、死亡原因の20%を占める心臓疾患や、罹患者が世界で5.5億人にも及ぶ認知症のボトルネックとなっているのは、血管だと言えます。私が医師として専門とする糖尿病もそうであるように、血管の問題はさまざま病気の要因となるんです。


ライター、和田(以下、和田):現代の医療技術をもってしても、傷ついた血管を修復することは難しいのでしょうか?


大森氏:バイパス手術や人工血管のような治療法は、体の中でも特に大きな血管に使える方法です。しかし全身を巡る血管の95%以上は微小血管で、ここを根本的に治療する有効な方法は現状ありません。


(資料:リバスキュラーバイオ)
(資料:リバスキュラーバイオ)

和田:御社の掲げる「血管内皮幹細胞」を用いた再生医療とは、その課題解決につながるものなのでしょうか?


大森氏:「血管内皮幹細胞」とは、その名の通り血管に特有の幹細胞(※1)です。皮膚などの組織と同じように、血管にも特有の幹細胞があると考えられていましたが、長らくその存在は不明でした。それを見つけたのが、微生物病研究所で所長を務め、リバスキュラーバイオの共同創業者でもある髙倉伸幸教授です。


※1幹細胞:失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞のこと


(資料:リバスキュラーバイオ)
(資料:リバスキュラーバイオ)

和田:その細胞を発見できたことで、どんな治療が実現するのでしょうか?


大森氏:私たちの治療法が画期的なのは、「肥料」を与えるのではなく「種」をまける点です。これまでにも、遺伝子治療や他の細胞の移植によって血管を再生させる試みがなされてきましたが、それらの方法は人間が本来持っている血管を作る力を強める効果に留まっており、重症度が高い病態になると効果が望めませんでした。


実験中の様子(写真:リバスキュラーバイオ)


他方、私たちの治療法は、困難とされてきた領域にも活用できると考えています。「血管内皮幹細胞」は血管に特化した幹細胞であり、iPS細胞のように体の部位を万能に再生できるものではありませんが、先ほど申し上げた通り、血管の問題はさまざまな病気の原因になり得ます。つまり、治療に貢献できる範囲もそれほど幅広いということです。


例えば、皮膚の潰瘍や重症の下肢虚血、脳血管性の認知症などへの対応を想定しています(下図)。また、遺伝性の病気である血友病(※2)やライソゾーム病(※3)にも応用する方針です。


※2 血友病:出血が止まりにくくなる遺伝性の病気

※3 ライソゾーム病:ある酵素の遺伝性欠損により、内臓や神経の異常を引き起こす病気




(資料:リバスキュラーバイオ)


新薬の開発に向け、臨床試験へと着々と前進


和田:実用化に向けた取り組みは、どの段階まで進んでいるのでしょうか?


大森氏:現状では、ヒトの脂肪組織から血管の細胞シートの作成に成功しており、さらにそのシートをマウスに移植して有効性を確認できました。ここで指す有効性の確認とは、新たに血管を作る力があった、ということです。その後の実験においても、潰瘍や虚血といった症状に対して、実際に傷を治したり、血流を改善したりといった有効性を立証できました。


(資料:リバスキュラーバイオ)
(資料:リバスキュラーバイオ)

和田:今後の計画についてはいかがでしょうか?


大森氏:1stパイプラインとして定めた皮膚潰瘍の分野においては、臨床試験を想定して、安全性の確認や細胞製品の製造方法の確立を行う作業に入っています。その後、2ndパイプラインである血友病の新薬開発や、先ほど挙げた疾患への適応拡大へと進めていく考えです。


臨床試験に関しては、私自身が医師であることを生かして、大阪大学での実施を見据えて協議を進めています。臨床試験による効果検証と並行して、より市場の大きなアメリカでの展開も計画中です。


(資料:リバスキュラーバイオ)
(資料:リバスキュラーバイオ)

医師から経営者へ 常に抱く「患者を救いたい」思い


西山:現役の医師である大森さんが、なぜ起業することになったのでしょうか?


大森氏:実は、当初はスタートアップを立ち上げるつもりはありませんでした。大学院を30代半ばで卒業して、次にやることを考えるためにビジネススクールに通い始めたんです。ただ、スクールへと進んだ動機は、将来クリニックの開業を視野に入れると、経営的な視点が必要だろうと考えたからでした。


同じころ、スタートアップの経営人材を育てるセミナーにも参加したのですが、当時は「こんな世界もあるのか」と驚いたくらいで、自身が起業するなんてことは全く頭になかったんですよ。


髙倉伸幸氏(写真:リバスキュラーバイオ)
髙倉伸幸氏(写真:リバスキュラーバイオ)

和田:のちに共同創業者となる高倉教授とは、もともと面識があったのでしょうか?


大森氏:いえ、ありませんでした。そのセミナーでメンターをしていた人を通じて知り合いました。セミナーのプログラムを終えたころ、そのメンターを介して「血管内皮幹細胞の技術が実装段階に入ったので、一緒に事業に取り組んでくれる人材を探している」と伺ったんです。


和田:同じ阪大にいながら、外の世界を経由してつながったのですね。


大森氏:そうなんです。というのも本来であれば、微生物病研究所で所長を務める高倉先生と、大学院を出たばかりの医師である私が対等に話せる機会なんて、まずありません。ただ、起業を考えていない状況でもありましたから、「せっかくだし話だけでも聞いておこう」くらいの心構えでした。


でもその後、技術のポテンシャルやビジネスプランなど、3カ月ほどかけて事細かに説明していただいた結果、最終的には「一緒に取り組ませていただきたい」とお願いしました。それが、リバスキュラーバイオを立ち上げた経緯ですね。

大阪大学微生物病研究所
大阪大学微生物病研究所

西山:会社員の経験もない状況で起業されたわけですから、ご苦労も多かったのではないですか?


大森氏:苦労という意味では、実務的なことよりも、マインドセットの切り替えが大変だったなと感じます。医師の仕事は失敗が許されないものですよね。一方、スタートアップとしての仕事は、挑戦と失敗を繰り返して成長していくものです。その意味で考え方が180度違いますから、その点を切り替えるのに苦労しました。


今となっては、ガイドラインなどで決められた治療を提供する「枠がある」世界から、「自分たちで考え抜いた道を選ぶ」世界に変わったことを、日々おもしろく感じています。医師として約10年働いてきて、考え方を変えるにはいい機会だったのかもしれません。


和田:もともと糖尿病の専門医である大森さんからすると、現在の領域は専門外の部分も大きいと思います。にもかかわらず、取り組もうと考えたのはなぜですか?


大森氏:臨床医の立場から「患者に新たな治療法を提供できるかもしれない」という動機が強いです。糖尿病の専門医として数々の臨床現場に臨んでいると、治らない病気で苦しんでいる患者さんが多数いらっしゃる現実があります。ただ、本当に稀なのですが、新薬の登場で、病状が劇的によくなる瞬間に立ち会えることも実際にあるんですよ。そのときのとてつもない喜びは、言葉では説明しきれません。


本社を置く、最先端感染症研究棟の前にて
本社を置く、最先端感染症研究棟の前にて

起業前に高倉先生のレクチャーを受けて、「この技術は、世界を変えられるかもしれない」と感じ、「本当にこんなチャンスはない」とも考えました。もちろん決断に至るまでに葛藤もありましたが、世界中に新たな治療法を届けられると信じて、これからも取り組んでいきます。


西山:大森さんの目指す世界が、一日でも早く実現されることを願っています。本日はありがとうございました!


 

取材を終えて

リバスキュラーバイオのコアメンバーは、医師として自ら臨床現場にも立つ代表の大森氏、血管研究の第一人者である高倉氏、製薬会社出身でVCの在籍経験もあるCOOの西角氏の3名。「創業メンバーと喧々諤々の議論をしながら育ててきた」と語る同社の事業には、高倉教授と西角COOの知見が不可欠です。


大森さんと2人の間には20歳ほども年の差があるそうですが、非常に良い関係性であることがお話から伝わってきました。障害が起きた微小血管の根治療法がない現状を変革しようと試みる大森さんたちの取り組みに、要注目です。

(ライター 和田翔 )






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