top of page
執筆者の写真Yoko Yagi

糖尿病による足切断を0に!クラウド型フットチェックアプリ『Steplife』:セカンドハート

更新日:9月27日

関西スタートアップレポートでご紹介している注目の起業家たち。今回は、糖尿病患者の足切断ゼロを目指す株式会社セカンドハート 代表取締役 石田 幸広(いしだ ゆきひろ)氏にお話を伺いました。

取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)

八木曜子(生態会ライター)

 

石田 幸広 氏(株式会社セカンドハート 代表取締役CEO)

1981年生まれ、京都府出身。2004年広島国際大学保険医療学部臨床工学科卒業、臨床工学技士取得。人工透析を専門に医療機器安全管理責任者等に従事。2019年石田プロダクツ合同会社創業(医療機器開発コンサル業)、2021年株式会社木幡計器製作所取締役就任(現職)。2023年石田プロダクツ合同会社を株式会社セカンドハートに組織変更。

 

■複業での活動から取り組む課題を認識


ライター八木(以下、八木):本日はお時間いただきありがとうございます。まずは株式会社セカンドハート設立の経緯を教えて下さい。


セカンドハート石田代表取締役(以下、石田):はい。2004年に大学卒業後、臨床工学技士の資格を取得して、医療機関で働き始めました。主に人工透析に携わっていましたが、2015年から医療や介護従事者向けにプレゼンテーションセミナーを複業として始め、2019年には医療機器のコンサルティングを行う「石田プロダクツ合同会社」を設立しました。


そして2021年にお声がけいただき、株式会社木幡計器製作所の取締役に就任しました。そこで、ASEANの研究者たちが工場見学に来る機会がありました。わたしとしては呼吸筋力測定器をASEAN市場に展開したいという考えがあったのですが、ディスカッションを進める中で、彼らから「糖尿病で足を切断する患者が多くて困っている」という話が出まして、世界中でこうした深刻な問題があることを初めて認識しました。それまで日本国内の医療現場しか見ていなかったので、目の前の患者さんに対処するだけでしたが、もっと大きな視点が必要だと感じたターニングポイントでした。


■世界的な健康課題である糖尿病と足切断


八木:それがセカンドハート設立のきっかけになったのですね。


石田:そうです。ASEANの研究者とのディスカッションで浮かび上がったニーズに応えるために、糖尿病の重症化予防にフォーカスした事業を展開しようと決めました。最初は木幡計器製作所の内部で進める予定でしたが、資金面やリソースの限界もあって、スタートアップとして独立することにしました。


ちょうどその頃、日本政府がスタートアップ支援を強化していたタイミングだったので、資金調達もしやすく、2022年6月に現在の事業をスピンアウトする形で、セカンドハートを立ち上げました。


そして2022年の8月に、”始動 Next Innovator 2022”というプログラムがあり、そこに事業アイデアを応募しました。そのタイミングで、糖尿病の重症化予防に向けた事業計画を改めて作り直し、具体的な事業として進め始めたという流れです。


八木:臨床工学技士としてはいつ頃までお仕事されていたのですか?


石田:実は今も続けています。臨床と並行して、今回の株式会社セカンドハートと株式会社木幡計器製作所という三足のわらじを履いている状態です。


八木:それはご多忙ですね...。糖尿病に特化した事業を始めたきっかけは、先ほどお話いただいた通りですが、世界的に見て糖尿病はどれほど大きな課題になっているのでしょうか?


石田:世界的には年間100万人が糖尿病で足を切断していると言われています。よく「30秒に1本」というデータがあるのですが、これはもう10~20年前から言われていた数字なので、今はもっと頻度が高くなっているかもしれません。


八木:世界中で糖尿病患者が増えている背景には何があるのでしょうか?


石田:一つの要因は医療レベルの向上です。今まで見逃されていた糖尿病患者が診断されるようになったことが大きいと思います。また、食生活や生活環境の変化も大きいです。例えば、ベトナムでは過去5年で車の台数が倍増していると言われており、運動不足や不健康な食生活が糖尿病の原因として懸念されています。


■一次予防としてのクラウド型フットチェックアプリ"Steplife"


八木:糖尿病患者の増加は世界的な社会問題なのですね。それでは御社が作成しているアプリ"Steplife"について詳しく教えて下さい。


石田:はい。当社のミッションは糖尿病患者の足切断を防ぐことです。糖尿病が進行すると、神経障害によって足の感覚がなくなり、傷ができても気づかないことがあります。これを防ぐためにフットチェックと呼ばれるケアが重要になります。フットチェックは、紙のフットチェックシートを使って患者さん自身がチェックを行います。しかし、月に1回など診察の間隔が空いてしまうため、その間に問題が発生しても気づかないことが多いのです。そこで、患者さんがいつもとなにか違うと感じたらすぐに病院に来てもらうように指導しています。




八木:それをアプリやVRでサポートするということですね。


石田:そうです。この”Steplife”を使って、患者さんが自宅でフットチェックをできるようにし、異常があればすぐに医療者に知らせる仕組みを作っています。これにより、足切断のリスクを減らせると考えています。


実は患者さんが傷を作っても気づかないことが多いのです。「足をチェックしてね」と言われても実際には見ないことが多く、傷が悪化して、最終的には足を切るしかない状態になってしまいます。傷は病院でできるわけではなく、家庭や職場でできることが一般的です。


八木:家庭でのケアが足りないということでしょうか?


石田:そうです。診察が1ヶ月に1回程度だと、家庭での状況をカバーしきれないのです。そのため、家庭でリアルタイムに毎日の情報を画像で管理して医療者が足の状態を確認できるシステムが必要だと考え、足の状況を写真で送るシステムを考案し開発しました。


日本にも世界にもこういったシステムはまだ存在していません。現在、糖尿病治療の現場では「二次予防」といわれる傷ができた後のケアに力を入れています。ですが、傷ができないようにする「一次予防」の仕組みはほとんどありません。


八木:確かに、糖尿病関連で傷ができないようにするためのサービスはあまり聞きませんね。"Steplife"は画像を撮って医療関係者が確認するという仕組みになっていますよね。マネタイズについてはどう考えていらっしゃいますか?


石田:かかりつけの病院がこの"Steplife"を導入していれば、患者さんは無料で使えます。基本的には病院からの支払いがメインの収益モデルです。ユーザーが病院と連携している場合、アプリは無料で使えますが、病院がシステムを導入する際にサブスクリプション料金が発生します。初期費用やサポート費用は一切かからない仕組みです。




八木:目標としては、どのくらいの医療機関での導入を目指しているのでしょうか?


石田:まずは1年間で50施設の導入を目標にしています。現在は4施設での導入が進んでいるところです。今後、もっと認知度を高めていく必要があります。糖尿病学会にも主に先生方に挨拶するために参加しました。これまでになかった仕組みなので、非常に評判は良いです。必要とされているものだと感じています。


八木:どういった反応をいただいていますか?


石田:概ね好評ですが、現場の看護師さんからは「おじいちゃんおばあちゃんにはアプリは使いにくいのでは?」というご意見もありましたので、シニアユーザーが違和感なく使えるように工夫しています。家庭での写真撮影にデジカメを使っていた時代から、高齢者もスマホを使う時代になってきたので、これからを見据えるとちょうど良いタイミングだと思います。


■慢性期医療患者に寄り添って伴走するサポートが必要


八木:皆さん自宅でフットチェックをきちんとやっているのでしょうか?


石田:やっている方もいれば、やっていない方もいます。これまではフットチェックの仕組み自体がなかったので、仕組みがあればもっと多くの人がやってくれると思います。我々がやりたいのは、患者さんに寄り添って治療の伴走をすることですから。


八木:治療の伴走、なるほど。プレススリリースでも「患者の孤独」について触れられていましたが、そういった部分を意識してサポートされているのでしょうか?


石田: はい。糖尿病患者のペルソナとしては、孤独な高齢者や食事制限でストレスを感じている患者さんなどを想定しています。特に独居の高齢男性など、孤独を感じる患者さんに対して、医療従事者が最後の砦になっている現状があります。しかし、診療報酬やリソースが限られているため、病院側も十分なサポートができないことがあります。


現在医療現場では慢性期医療よりも外科医療が優先される傾向が強まっています。これは、透析や糖尿病内科などが注目されにくくなっている現状を反映しています。そういった現状に対してもなにかサポートできないかという思いからもサービスを開発しました。


八木:確かに糖尿病患者のモチベーション維持や、精神面でのサポートも重要ですよね。


石田:そうなんです。患者さんに寄り添うことが非常に大事だと思っています。励ましのコメントやサポートが、病気に対してモチベーションを高める要因になると考えています。


■今後の展開とASEAN市場への進出


八木:”Steplife”のフットケアは糖尿病以外にも活用できる可能性があると感じますが、どうお考えですか?


石田:もちろんです。外反母趾や水虫、ランナーやサッカー選手など、足のケアは幅広い人に必要です。日本ではまだフットケア文化が定着していませんが、広がれば大きな可能性があると思います。今回の取り組みは糖尿病患者の足のケアに焦点を当てていますが、他の人々にも役立つツールだと考えています。


八木:大切なポイントですね。 競合やベンチマークにしているものはありますか?


石田:特にベンチマークはありません。全て自分たちでイメージして作っています。現場のニーズや課題に基づいて、これまでにないものを開発しているという感じですね。


八木:糖尿病の予防に関して、現在は食事管理がメインとなっているようですが、他にどんなサポートがありますか?


石田:食事管理や血糖測定器との連携アプリは増えています。ただ、現在は個別に立ち上がったサービスが多く、それらを統合したものが必要だと感じています。医療現場でも同じ意見が多く、全ての機能を一つにまとめたツールを求める声が高まっています。


八木:アプリは現在は認知度を広げている段階とのことですが、診療所への導入についてどのように進めているのでしょうか?


石田:現在、私自身が直接診療所に赴いて広めていますが、商社さんとも連携して医療機器や医薬品を販売するディーラーを通じて、アプリを取り扱ってもらっています。本格的に開発を始めたのは2023年の4月か5月頃で、2024年6月のリリースまでに約1年かかりました。8月から導入する予定の診療所は、糖尿病に限らず「足と歩行の診療所」として広く足のケアを行っています。そこの先生は、足の健康管理に強い関心を持っていて、1次予防の重要性を強く感じている方です。そうした熱心な先生方が、アーリーアダプターとして協力してくれています。


八木:なるほど。アプリとVRの両方を展開されているとのことですが、どちらを主に進めていく予定ですか?VRについては今どんな状況でしょうか?


石田:両方とも進めていきたいと考えています。ただ、アプリの方が広がりやすいかもしれません。VRに関しては、映像の検証を進めていて、8月4日に本番の撮影を終えます。日本での展開を考えていますが、海外展開については現場の状況を確認してから決めたいと思っています。VRは日本よりも海外での展開に期待しています。現地の医療現場や患者さんのニーズを確認しながらローカライズを検討しています。


左:生態会 八木、右:セカンドハート石田氏

生態会 垣端(以下、垣端):マレーシアを拠点に、他のASEAN諸国にも進出を考えているとのことですが、具体的な国はどこですか?


石田:マレーシアを拠点に、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンといった国々に展開していく予定です。これらの国々でも糖尿病の問題が深刻なので、現地のニーズに応じたソリューションを提供していきたいと考えています。


現在、マレーシアでの起業家ビザを申請しており、これが取得できれば8月から現地調査を進めます。マレーシアは糖尿病が国民病とも言われており、足の切断が多い現状があります。治療の質を向上させ、文化的な課題を乗り越えながら、現地に合ったソリューションを提供していきたいです。


垣端:文化的な違いも大きな課題になるのでしょうか?


石田:そうですね、特にムスリムの方々の文化や宗教的な問題に配慮しながら、医療サービスを提供する必要があります。例えば、女性の足のケアに関しては、誰がどのようにチェックするかという点で慎重に進めなければなりません。


八木:世界的な医療課題を解決できる可能性をとても感じます。本日はお時間いただきありがとうございました!


左:生態会 垣端
 

石田CEOは複業として医療コンサルや医療機器開発等に興味を持つ中で糖尿病患者の足切断という解決課題に出会ったとのこと。臨床工学技士として20年間、約300人の糖尿病患者と向き合う中での気づきを活かし、紙でのフットチェックをDXして現場の作業負担軽減と足切断リスクを減少させるために創傷の一次予防に注力されています。熱い思いを強く感じ、心から応援したいと思いました。(ライター八木)

 

Comments


bottom of page