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  • 執筆者の写真橋尾 日登美

日本初3Dプリンタ住宅 30年ローン時代を覆す新しい選択肢は、最先端住宅


関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、日本発・3Dプリンターで住宅をつくり提供している、セレンディクス株式会社にお話を伺いました。スタイリッシュなデザインで、低価格なのに耐震・耐熱に優れるというこれまでに見ない技術と製品は、発表後から世界で注目を集めています。2023年3月には経済産業省のJ-startupに採択され、今後の見逃せない注目企業です。CTO 緒方さんにお話しいただきます。


取材・レポート:橋尾日登美(生態会 事務局)



 

CTO 緒方 海斗さん 略歴

1994年沖縄出身。明治大学経営学部卒業。学生時代からインターンでラオスに行き、そこでセレンディクスのCOO飯田と出会い、共に従事。卒業後、2018年Lao Japan Marketing Sole Co., Ltd 取締役を経て、後進国の劣悪な住環境を打開するため、アパート開発の会社Tonelico Lao Sole Co.,Ltd を設立。その後もケアリゾート village SENAHA 専務取締役などを務める。コロナ禍になりラオスから事業撤退する際に、COO飯田からプロジェクトへの誘いがあり、2020年にセレンディクスCTOに就任。

 


生態会 橋尾(以下、橋尾):今日はよろしくお願いします。まずは、事業概要を教えてください。


セレンディクス株式会社 CTO 緒方さん(以下、緒方):

私たちは「30年の住宅ローンを0にする」を目指して「世界最先端の家で人類を豊かにする」をビジョンに、3Dプリンタで住宅を作る事業をしております。2022年3月に、日本初の3Dプリンタ住宅Sphere(スフィア、以後Sphere)を発表 しました。


橋尾:3Dプリンタというと、樹脂を重ねて立体をつくる、あの?


緒方:

はい、まさにそれです。

元々、CEOの小間は京都大学発スタートアップとして会社を興し、世界最先端のEV車を作って販売していました。3年前に売却し「車の次は、世界最先端の家を創ろう!」と、このプロジェクトを始めてた経緯があります。最先端の家、というのが3Dプリンターで作る家だったんですよね。

とは言いつつも、私たちの事業の目的・解決しようと考えている課題は「最先端の家を3Dプリンターで作る」ではありません。



橋尾:冒頭の、住宅ローンに関するお言葉が印象的だったのですが、そちらでしょうか?


緒方:はい。我々は「30年の住宅ローンを0にする」をミッションに掲げています。

現在の日本人の住宅ローンの完済平均は73歳となっています。定年をはるかに越えた年齢なんですよね。定年後10数年、なんの給与の保証もないのに、本当に住宅ローンを払い続けられるんだろうか?と誰でも疑問を持つ数字なのでは、と思います。本来なら住宅ローンの心配などせず、その分やりたかった事に挑戦したり、家族の時間を大切にすることにお金を使いたいはずです。

私たちは、住宅ローンを組まずとも購入できる価格で住宅を販売すれば、これを解決できるのではと考えています。例えば、100平米で300万円程度、車のような金額で家を購入できるような世界を実現できたら、金銭的に自由が手に入ると思うのです。

そこで、住宅をゼロから再発明し、最先端かつ人々を住宅ローンから開放する住宅づくりを目指しています。


橋尾:その方法が3Dプリンタだったのですね。構造を詳しく知りたいです。


緒方:3Dプリンタ住宅Sphereは球体状です。鉄筋は入らず、外部はコンクリートの層で作られています。3Dプリンタでコンクリートを重ねて積み上げるので、地面からカーブを描くことができます。そうすると、壁と屋根を分けずにひと続きの形状にでき、外壁すべてを3Dプリンタのみで完結できる。これが特徴です。そして、外装を仕上げる加工にかかる時間は、わずか23時間12分です。単一素材の仕様で、人の手作業が少なくて済む。人件費、制作時間も抑えられ、低価格で提供できるんです。

最先端の家、というのもコンセプトのひとつなので、実現するためのプロダクトも積極的に取り入れています。IoTを使ったセキュリティ機能や、内壁に液晶パネルを貼ったり、パーソナルロボットと共存できる仕組みを取り入れたり。


橋尾:住宅本体が低価格だと、予算次第でいろいろな機能を取り入れられますね。




写真提供:セレンディクス



写真提供:セレンディクス



新しいテクノロジーで未来の住宅事情を救う



橋尾:素材がコンクリートなのは安心ですね。ただ、なかなか住宅には見ない形状です。住宅の基本機能、耐震や耐熱に不安を抱いてしまうのですが、その点はいかがでしょうか?


緒方:まず強度で言うと、Sphereは従来の住宅よりも自然災害に強いと言えます。球体の形状は、物理的に見て強度が高いのです。力が一か所に加わらず分散するためですね。角があるとどうしてもそこに力が集中し、そこから破損が始まるんですよね。

海外でよく見る3Dプリンタ住宅との違いでもあるのですが、Sphereは鉄筋などの構造体を使わず作ることができたために、球体の形状を実現しています。そして、10㎡で22トンと頑丈です。構造設計に強い建築設計事務所、KAPと提携し、世界最高水準の耐震を取り入れています。壁面を2重構造にすることによって、断熱は世界最高峰と言われるヨーロッパ基準。

これらのことが、住宅の脱炭素化に資する技術開発を進めている会社として、環境省に大きく取り上げていただきました。


橋尾:それはすごい。逆に、この方が安心できる造りとも言えますね。熱さ寒さ、風通しなど、快適に過ごせるか住環境面はどうでしょうか?


緒方:一般的なコンクリートと同じなので、3Dプリンター製だから快適性が損なわれる、とは考えにくいです。ですが、実際には販売開始はこれからで、今後、入居したお客様にリアルな声を頂戴するフェーズになります。一般販売の前に、限定で大阪、長野、大分、岡山など、6棟ほど販売を進めたので、ご意見をいただいて改善をしていこうと思っています。


提供:CLOUDS Architecture Office



橋尾:テスト販売をすでにされているのですね。地方からの展開を考えていらっしゃる故の立地選定でしょうか?


緒方:そうですね。住宅ローンから逃れる、という目的を考えると、やはり都心部は土地が高く、ローン支払い額が上がってしまいます。住宅ローンは家の価格だけではなく、土地の価格も含まれてきますので。ですが、これからの時代は価値観が変ってくると思っているんです。これまでの不動産は、中心部からの距離が重要でしたが、これからは実測距離よりも時間距離の方が重要視されるのではと考えています。道のりとしての距離よりも、行くのにどの程度時間がかかるのか、という事ですね。


今「空飛ぶクルマ」を開発しているSkyDriveさんが、大阪万博で実証実験をしていますよね。都心部から90分のエリアは「空飛ぶクルマなら15分で行くことが可能になると。こういった未来を見据えると、100平米の土地は東京都心部で5億円ほどですが、福岡であれば5,000万円ほどになります。さらにそこから90分、大分はたったの20万円です。

今後、都心部へ出るのにかかる時間はどんどん減っていくでしょう。それなら都心部から90分離れた、緑豊かなところで、住宅ローンに縛られない生活を手に入れていただきたいと、提案をしていくつもりです。


また、Sphereとは別のラインナップで、慶應義塾大学と共同プロジェクトで『フジツボ(Fujitsubo)』という49~100平米の住宅の開発を進めています。こちらは高齢者の1人~核家族向けを想定したモデルで、同じく、住宅と人生にかかわる問題を解決したいと考え開発したものです。

Sphereを発表した際に、60歳以上の方からの問い合わせが非常に多くあったんですね。若いころに住宅ローンを組んで家を買ったものの、そろそろリノベーションが必要で、1,000万ほどの費用が見込まれる。そんな額がかかるのなら、持ち家を手放し賃貸に住もうと考えても、貸してもらえない。高齢者は死亡リスクがあるので、貸し渋る家主が少なくないようなんです。そんなところにSphereの存在を知って、300万円から500万円くらいで、老夫婦が2人で暮らせる家を開発してくれないかという声をいただきました。


橋尾:価格をおさえた住宅は、そんなところにもニーズがあるのですね。社会問題への貢献度が高いですね。


提供:慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター



橋尾:なにか、ビジネス的な課題はあるのでしょうか?


緒方:特に大変なのが、やはり開発です。

世界の3Dプリンター住宅がなぜ球形の形にしていないかというと、球状に角度を付けるのが非常に難しいからなんですね。皆さんの日頃見ている3Dプリンタは樹脂製の素材を重ねるので、角度をつけることはできるのですが、私たちが作っているのは住宅なので、角度をつけすぎると自重で落ちてしまう。なので、コンクリートの素材そのものから開発しています。ただし、この点だけ実現さえすれば屋根まで一体型で成形出力ができることが分かっていました。


橋尾:技術的に難易度の高い開発をされていると思うのですが、技術者はどのように集められたのでしょうか?


緒方:世界最先端の家を実現するため、と、コンソーシアムを組成し、140社もの企業の方々と手を組んでいます。その中の関連企業の資源や技術、知見をお借りしてプロジェクトを進めています。目指しているのは「世界最先端の家」ですから、私たち1社だけでは実現できません。進歩とは力の結集だと考えています。


Sphereの開発はプレスリリースを日本国内に向けて出したのですが、その時は大きな反響をいただきました。消費者からは1,000件を超えるお問い合わせ、メディアは世界26ヶ国59媒体に掲載されました。140社ものの企業と提携でき、共感いただいている事は強く感じていましたが、更に日本はおろか、世界から期待を寄せていただいていると実感しています。


写真提供:セレンディクス



実は世界では、さまざまなスタートアップ企業が3Dプリンター住宅の開発競争を行っています。その中でも、我々のプロダクトがもっとも建築用3Dプリンターに最適な住宅、と自負しています。


通常「家」と聞いて思い浮かべる箱型の住宅がありますよね。世界で作っている3Dプリンター住宅は、この外壁だけを出力して、屋根は今までと同じように手作りし、職人が組み立てます。どうしても人の作業が介在し、施工時間は短くても3ヶ月から6ヶ月かかる。そうなると、価格も30%程度しか落とすことができません。

我々の住宅は、全てを3Dプリントで完結できる。施工時間を24時間以内に抑えることができ、コストが下がる。結果価格を抑えられるんです。24時間のうち8時間は足場組みの所要時間です。これも自動化して更なるコストダウンをしたいと考えています。いま世界で起きている住宅価格の高騰危機に貢献することができると感じています。



橋尾:世界進出の可能性があるのですね。


緒方:2025年には、大阪・関西万博で世界へアピールしたいと考えています。それ以降は、全ての人から住宅ローンをなくし、そしてみなさんに自由を手に入れていただきたいと考えているんです。将来的には、世界最先端の家を集約した「世界最先端スーパーシティ、インダストリーキャピタル(※1)」を創りたいと構想しています。

そのためにまずは直近、2023年にはシリーズBの資金調達、一般販売を2023年12月に開始を目指します。


※1…特定産業首都。特定の産業で日本一の地位を確保し、その分野の中心地になること。



 


取材を終えて

2022年6月の発表リリースに大きな反響を得た同社。それも納得。まさに「未来」を見ることができました。商品のユニークさ・素晴らしさだけではなく、建築人材の不足、災害時の活用などあらゆる社会問題への貢献も期待できます。いち消費者としても、住宅選びの選択肢にSphereが入る日が待ち遠しいです。

(スタッフ 橋尾)


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