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  • 執筆者の写真森令子

文化遺産で地域創生!3D計測など最先端の文化財研究と地域住民をつなぐ:SOCRAH

更新日:2月27日



関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、株式会社SOCRAHの代表取締役 津村 宏臣氏に話を伺いました。同社は遺跡や歴史的建造物をはじめとする文化遺産をデジタルコンテンツ化するとともに、地域の文化資源として地域創生に活用する事業を展開しています。

取材・レポート:垣端たくみ(生態会事務局)

森令子(ライター)

 

津村 宏臣(つむら ひろおみ)氏 略歴

1973年、広島県生まれ。岡山大学卒、総合研究大学院大学文化科学研究科日本歴史研究専攻 博士(文学)。2005年に同志社大学文化情報学部に赴任(現:准教授)。2009年より、文化遺産情報科学研究センターセンター長(現職)。遺跡や建造物など文化遺産をデータ解析し当時の生活様式や文化生態を解明する考古学、人類学、時空間情報科学、行動計量解析学を研究している。NPO京都文化財建造物研究所理事、小豆島町世界遺産化対策室運営委員長、NPO人文社会調査研究支援機構代表理事などを歴任。2018年より岡山県真庭市政策アドバイザーを務める(現職)。2022年に株式会社SOCRAH設立

 

古墳、古民家など文化遺産をデータ化し、地域創生に活用


生態会事務局 垣端(以下、垣端):本日はありがとうございます。まずは、SOCRAHの事業について教えてください。


SOCRAH津村 宏臣氏(以下、津村氏):SOCRAHは、古墳や古民家といった文化遺産を最新技術を駆使して調査、3D計測し、デジタルデータとしてアーカイブしたりXRなどのデジタルコンテンツ化する、そして、大学など専門機関が解明した研究成果とともに、地域の文化資源として活用する地域創生プロジェクトを実施しています。


私は、昔の人が作り、使い、残した“モノ”である文化資源を社会資源化、共有化する方法とその実践について、大学で研究しており、この研究は以下の2つに分けられます。

  • 発掘や計測などの文化遺産調査を通じて、対象のデジタルデータをアーカイブすること、そのアーカイブから歴史・文化を再構築する研究

  • 調査データを、AR/VRなどXR技術で行政、教育、観光の現場で可視化、身体化する方法の探求

大学は研究機関として「文化遺産情報の共有化」のための調査やシステム開発を担っています。一方、SOCRAHは、共有化された情報の運用・社会実装を担う存在でありたいという思いで設立しました。


家の見取り図に数十個の計測点
古民家の3D計測イメージ

ライター 森令子(以下、森):具体的には、どのようなプロジェクトがありますか?


津村氏:岡山県真庭市で、古民家を改築したサテライト施設「水凪の庭」を拠点とした地域創生プロジェクトを進行しています。真庭市には、同志社大学・行政・地元の保存会などが発掘・調査している荒木山西塚古墳があり、そこでの出土品や調査・計測をもとにしたデジタルコンテンツなどを活用し、市民参加型フィールドミュージアムを「水凪の庭」で運営予定です。ミュージアムはまだ開設前ですが、地域の子どもたちと一緒に古代米を栽培したり、定期的にイベントを開催するなど、行政と連携しつつ住民の皆さんとの活動は始まっています。同志社大学の学生たちも、様々な形で参加してくれています。

真庭サテライト施設「水凪の庭」(岡山県)

そのほかにも、博物館向け、観光向けなどの文化遺産のXRコンテンツの製作、文化遺産のXRコンテンツを使った地元の小中学校向け教育事業などを、島根県松江市や奈良県、京都府などで実施しています。行政や教育委員会などと協働することが多いです。


森:サテライト施設「水凪の庭」はユニークな取り組みですね。


津村氏:はい、私たちの事業のシンボルのような場所です。4世紀の前方後円墳である荒木山西塚古墳では、地元の方々が主体となって発掘調査が進められています。住民参加型の発掘調査は全国的にも珍しく、子どもから大人まで多くの方々が熱心に活動しています。「水凪の庭」は、そのような方々にとって、「地域の宝」である古墳に継続的に関わっていける場所になります。出土品を見たり、デジタルコンテンツで昔の生活を体感したり、地域の歴史を語りあったり、住民から観光客まで関わる人々を増やし、文化遺産を地域創生に繋げていくプロジェクトです。


地域創生モデルを学術的・理論的に研究するのは大学の範疇ですが、研究機関が運用フェーズまで関わるのは難しいことです。私達は企業として採算性のあるモデルを構築し、地域に根付かせていきたいと考えています。


実は、SOCRAH設立の以前にも、前身となるNPO人文社会調査研究支援機構を設立しています。文化遺産の研究成果を文化資源として地域に展開し、交流を促進し、地域創生に貢献したいという思いをもって、2015年から2018年まで活動していました。その時に手がけた各地の地域創生プロジェクトも、現在の活動につながっています。

水凪の庭でのイベント風景、地元の子どもたちが参加
「水凪の庭」でのイベント風景

真庭市の地域の方々との田植えイベント。古代米を栽培

文化遺産を活用する地域創生モデルに独自性

森:SOCRAHの強みについて教えてください。


津村氏:文化遺産を活用する地域創生モデルには独自性があり、事業モデルとして特許出願も計画中です。運用面でも、真庭市だけでなく、NPOで関わった小豆島などでもノウハウを蓄積してきました。また、私の専門である時空間情報科学・行動計量解析学では、IT技術の進化により最先端技術を使った高度な調査・計測・分析が可能となっており、そのような研究成果も活用しています。チームメンバーの専門的知見や、文化庁をはじめとした関係省庁や各地域の行政とのネットワークも強みですね。


垣端:文化遺産の保護は国や行政の仕事というイメージもあります。日本では、どのような現状なのでしょうか?


津村氏:日本の文化財保護制度は破綻しつつあり、非常に危機感を抱いています。例えば、地域にとって大切なお寺が文化財に指定されたが、予算が足りずに”専門家による修繕”ができず放置される、といったことが各地で起こっています。地域の人たちが自分達で修繕するなど、もっと住民が参加できるような方策があるとよいですね。


文化遺産の理想型として、”お伊勢さん”は素晴らしいと思っています。国宝などに指定されることなく、何百年も地域の方々が守り続け、今も大変な活気と賑わいがあります。文化財はその土地の人々のものであり、地域で活用できるのが本来のあるべき姿です。文化財保護法に頼りすぎることなく、文化遺産が地域創生に繋がるモデルを確立したいです。


文化資源活用ニーズは膨大にある

森:今後の事業展開はどのように考えていますか?


津村氏:文化資源活用に関する行政のニーズは膨大にあります。特に、コンテンツ制作は私たちの強みが活かせる成長分野ですので、XR動画制作の経験豊富な人材と連携するなどして、制作力を高めて対応したいですね。また、将来的には、企業の地域貢献活動との連携、“思い出の我が家”を壊す前にXRコンテンツ化するなどの個人向けサービスもありえます。事業の幅を広げていきたいと考えています。


垣端:本日は、どうもありがとうございました!



同志社大学発スタートアップとして、同志社大学京田辺キャンパスD-egg(中小機構インキュベーション施設)にオフィスがあります

 

取材を終えて

歴史的建造物を現地に行かなくても体感できたり、昔の生活を再現して体験できるようにするなど、文化遺産の研究成果を反映したXRコンテンツはぜひ体験してみたいと思いました。また、「自分の家は大事に守るが、地域の文化遺産が廃れていても気にしない傾向が強まっています。地域で守っていくことが重要です」というお話も印象的でした。文化遺産を守るために持続可能なモデルを普及しようという試み、まずは、岡山県真庭市での実現を応援しています!

(ライター 森 令子)




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