土壌の健康度を見える化。実績2万件の診断技術で、有機農業に科学の処方せんを:SOFIX


関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、立命館大学生命科学部の教授で、株式会社SOFIX(ソフィックス)※代表を務める久保幹さんに話を伺いました。
久保さんが手がけるのは、土壌の肥沃度を微生物の量で数値化し、化学肥料や農薬に頼らない有機農業を科学的に再現する技術です。SOFIXが導入された農地では、収穫量の増加や病害の抑制、味の向上といったさまざまな効果が確認されています。従来は経験と勘に委ねられてきた「土づくり」を、どのように進化させたのでしょうか?
※以下「SOFIX」は土壌の肥沃度の診断技術、「株式会社SOFIX/SOFIX社」はその技術を手がける会社を指す。
取材・レポート:垣端 たくみ(生態会事務局)
和田 翔 (ライター)
久保 幹(くぼ もとき)氏 略歴
1959年9月、広島県生まれ。広島大学で微生物・発酵工学などを専攻し、修士課程を修了。1997年に立命館大学へ着任し、開設して間もないびわこ・くさつキャンパス(BKC)で生物工学の第一期生から教鞭を執る。専門の微生物研究を土壌肥沃度診断技術「SOFIX」へと発展させ、研究成果を社会に広げる手段として2015年に一般社団法人、2022年に株式会社SOFIXを設立し、自ら代表を務める。
土壌の「肥沃度」を数値化できると、農業はどう変わる?
生態会事務局 垣端(以下、垣端):本日はお時間をいただき、ありがとうございます。まず、SOFIX社はどんな会社なのか教えてください。
株式会社SOFIX代表・立命館大学教授 久保 幹 氏(以下、久保氏):もともと大学では「土壌の肥沃度を微生物の力で高め、植物を大きく育てる」研究を続けてきました。その研究を世の中の役に立てようと考えたのが始まりです。SOFIXは、ソイル(Soil=土壌)とファータイル(Fertile=肥沃)そしてインデックス(Index=指標)を組み合わせた造語で、日本語では「土壌肥沃度指標」と呼んでいます。
従来の土壌診断が化学的な性質しか見られなかったのに対し、SOFIXの技術は土壌の肥沃度を「見える化」できる点が特長です。最終的には、地域にある物質を循環させ、脱農薬・脱化学肥料の有機農業の確立を目指しています。

垣端:現在はどんな事業が主力なのでしょうか?
久保氏:現在は土壌のサンプリング・分析が事業の柱です。その後、分析結果の説明と土壌を改良するためのカウンセリングを行い、土壌ごとに最適な有機肥料(堆肥・有機資材)の分析を行ったり、処方せん(堆肥のレシピ)を作成したりして、「勘に頼らない科学的な有機農業へのアプローチ」を実施しています。

ライター 和田翔(以下、和田):具体的に、土壌のどんなところを見ているのでしょうか?
久保氏:環境DNA(eDNA)解析という手法で、土壌の中にいる微生物の総量(総細菌数)を測定しています。土壌1グラムあたり2億以上の微生物がいれば良い土壌、それ以下ならば悪い土壌といった評価基準を作りました。特AからCまでの段階を設け、A以上なら「SOFIX認定土壌」としています。
和田:微生物というと無数の種類があると思うのですが、「量」を見るだけで肥沃度が判定できるのでしょうか?
久保氏:人間の腸内細菌と同じように、土壌の中にも善玉菌・悪玉菌のようなバランスが存在します。ごく単純に言えば、微生物の量が限界まで増えていれば悪い菌が入る余地がなく、反対に量が少ないとバランスを崩しやすい、と考えてくださればいいかと思います。ですから、「量」をみることはとても重要なんです。

有機農業を推進する背景に、日本の農業が抱える課題
垣端:先ほど「有機農業※の確立」というお話がありました。なぜこの領域に取り組んでいるのか、背景を教えてください。
※2006(平成18)年度策定の有機農業推進法で、有機農業とは「化学的に合成された肥料および農薬を使用しないことならびに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義されている。(参照:農林水産省『有機農業・有機農産物とは』)
久保氏:あまり知られていませんが、実は日本の化学肥料の使用量は世界トップクラスで、1ヘクタールあたりの使用量に換算すると、アメリカの2倍以上も使っています。農薬の使用量も高水準で、「とにかく生産量を上げよう」という方針で農業に取り組んできた結果だと言えるでしょう。
一方で有機農業の割合は、ヨーロッパの10〜20%に対して、日本は0.4%しかありません。国は2050年までに有機農業を100万ヘクタール(全農地の25%)にしようと掲げていますが、遅々として進んでいないのが現状です。

和田:化学肥料や農薬を使い続けると、土壌にどんな弊害があるんですか?
久保氏:まず無機物ばかりの土壌になって、ミミズや微生物が減るという悪い連鎖が起き、肥沃度がだんだん悪くなっていきます。そうなると土壌は硬くなり、水を通さなくなるんです。植物は育つことは育つのですが、土そのものの力は失われていきます。
ちなみに、これまで2万以上の検体を分析してきましたが、最上位の特A級は約3%しか存在しません。それくらい、日本の土壌の現状は深刻です。
和田:SOFIXで診断したあと、実際にどうやって土壌を良くしていくのですか?
久保氏:微生物を増やすアプローチをしていきます。人間が炭水化物やタンパク質を食べて元気になるのと同じように、炭素と窒素を土に加えていくんです。この割合も明確に数値化できているので、誰がやっても良い結果を出せるロジックを確立しています。

和田:現在、どんな顧客と取り引きしているのでしょうか?
久保氏:法人や自治体などさまざまです。サントリーHDとは「化学肥料や農薬を使わずにワインやビールをつくりたい」とのコンセプトで協業が始まりました。そのほかにも、ホームセンター大手のカインズと有機肥料や有機土壌を独自開発して、プライベートブランドの商品として販売しています。

和田:SOFIXが導入されている場所も、多岐にわたるそうですね。
久保氏:場所で言えば、水田や畑、果樹園が多いですね。例えば、伊丹市にある小西酒造の清酒に使う特別な酒米を、滋賀県で10年以上栽培し続けています。そのほか、大学キャンパス内の弱っていた桜の木を蘇らせた実例もあり、活用できる場所が非常に幅広いのもSOFIXの特長です。最近では、芝生の養生といった用途でゴルフ場からのオファーも増えています。
「SOFIXブランド」拡大のため、BtoC展開を加速

和田:研究者の立場から、なぜ会社を立ち上げようと思われたのでしょうか?
久保氏:研究の成果を広めるには、多くの人に使ってもらう必要があります。そのためには「ビジネスとして展開するのが最も近道だ」と考えたからです。
和田:それまで久保先生は研究一筋だったと思いますが、実際に会社の経営に携わってみていかがでしたか?
久保氏:率直に言うと、難しかったですね。それまでの研究費を基盤にしたスキームから、自分で稼いで人も雇って、という流れに変わったわけですから。それこそ全く違う世界の話で、事業に関する経費の用語から学び直したくらいでした。一方で「自社の取り組みをダイナミックに展開できるのがビジネスの醍醐味」とも感じています。
和田:今後はどの分野に注力する方針ですか?
久保氏:ビジネスとして拡大するためには、一般消費者向けの展開が重要だと思っています。まずは土壌の分析から利用を始めていただき、改良を一緒に進めながら、「SOFIXで育てました」というブランド農産物をどんどん増やしていくのが目標です。
垣端:達成のために、一番の課題は何でしょうか?
久保氏:微生物の量まで測って有機農法を実現できる技術は、世界を探しても他にありませんし、SOFIXの有用性を一度実感していただけると継続的な利用につながっています。一方で、その入り口の部分として「まず知ってもらう」ことが大きな課題です。
認知度は簡単に急上昇するものではないため、地道に広げていく方針です。ただし大切なのは、農業に貢献して、持続可能な食と農の地域循環をつくることですから、その点は忘れずに取り組みを続けていきたいと思います。
垣端:本日はありがとうございました。土の中にいる微生物の働きが、これほど農業に影響するとは驚きでした。これからのご活躍に期待しています!

【生態会のコメント】
個人的な話で恐縮ですが、久保先生とは10年ほど前にご縁がありました。当時勤めていた酒類メーカーで、SOFIXの技術を応用して育てたお米を使い、少しユニークな商品を開発・販売させていただいたのです。世間では農業の「6次産業化」が語られはじめて、しばらく経ったころでした。
あれから農業をめぐる気候変動や農地の放棄、人手不足といった課題は、深刻さを増すばかりです。SOFIXはこうした課題に直接的、あるいは間接的に効いてくる技術だと思います。土の見えない働きを可視化するこの技術が、これからどこまで広がっていくのか。その先を見届けたいと思います。
(ライター 和田翔)




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