関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。ゲームエンターテインメントの考え方を活用して、若者が様々な可能性を圧縮して試し、それを原体験に組込むことを支援するビジネスを展開することで注目のTRYBE社。その代表である山口ヒナタさんに、会社の狙い、起業までの経緯、ビジネスの両輪とするBtoB、BtoCへの取り組み等についてお聞きしました。
取材・レポート:西山裕子(生態会事務局)
藤井 拓 (ライター)
山口ヒナタ(やまぐち ひなた)CEO 経歴
2000年生まれ、大阪出身。関西大学入学後、大学の起業支援プログラムに参加し、高校の休み時間に考案したカードゲームを元に事業アイデアを練り上げる。大学在学中に数々のビジネスコンテストやアイデアコンペで優勝を経験し、大学からも資金や広報で支援を受ける。2020年に、高校時代の友人ら3名とともにTRYBEを創業(当時19歳)。創業後、エンタメコンテンツ企画のノウハウを継承しながら、BtoC及びBtoBの両輪でビジネス実績を積み重ねている。
TRYBEという社名とそれに込めた思い
生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず、TRYBEという社名とそれに込めた思いを教えて下さい。
山口ヒナタ氏(以下、山口氏):そのままなのですが、試して(TRY)+なりたい自分になる(BE)で、TRYBEです。TRYBEという会社の目的は、「人の興味のすべてを試せるようにすること」で、それを目指したいと思ったのは、将来の夢について友達と話していたときでした。
好きなことも、やりたいことも、なりたい自分も、これまで見たり聞いたり、味わったり喜んでもらえたり、褒めてもらえたりした様々なことの順列・組み合わせの中で形成され、だんだんとその確信度や納得感が高まっていき完成されるとしたら、大学生の僕らには、組み合わせるための材料があまりに少ないと思っていました。十分に試し切れていない状態で、自分の好きなことやなりたい姿を決めることが嫌でした。そこで、どんな風に生きたいのか揺れている若い人たちが、もっといろいろなことをギュッと短縮して簡易的に「試して」、自分の原体験に入れていけるような仕組みを作りたいと思って「試す」をテーマにTRYBEというチームを定義しました。
SNSで仲間を募り、オリジナルゲーム『人狼コロシアム』をきっかけに起業
山口氏:小中学校のとき、休み時間に友達とゲームをしたり、外に遊びに行ったりする時間や風景がすごく好きだったのですが、高校に入ると、休み時間は携帯を見て過ごすことが多くなって、寂しいなと思っていました。そこで、ノートをピーと千切って(笑)、友達と盛り上がりそうなオリジナルのカードゲームを作りました。そのゲームで遊ぼうと提案したところ、みんな携帯を置いて遊んでくれたんです。これが、起業の原点です。 その後、新型コロナが来て、学校もバイトも全部なくなって、家で暇になって、今から何をしようかなと考えながら、部屋の引き出しを開けたら、当時作った紙切れのゲームが入っていて、こんなのあったなーと思い出して、友達に電話をし、試しに商品化してみようかという話になりました。
このゲームを商品化するためにクラウドファンディングで資金調達をしてみました。偶然が重なって、200万円ほど集まりました。また、ゲームのテーマやシステムが評価され、数々の芸能人やインフルエンサーの方々に応援や紹介をいただき、今では全国のゲームの専門店でも販売してもらえるようになりました。
その資金を元手に会社を起こし、「試す」をテーマに、ゲームを主軸とする若年層向けのエンタメコンテンツを他にもつくっていきました。先に述べたように、ここまでものすごく迷いながら、自分たちが本当にやり抜きたいことについて何年も考えて、それでもやっぱり決まりそうになかったので、全部試せるようにしたいなと思ったんです。時間やお金や場所など制約を超え、興味があることすべてを試せる世界を、エンターテイメント業界のノウハウを応用すれば実現できると考えました。そして、自分の大切な人や同じ境遇にある人らが、物事を十分に試して、納得のいく「好きなこと」や「なりたい自分」を発見できることを願っています。
西山:従業員というかチームは何人でしょうか。
山口氏:チームは今9人です。現役大学生7人と、Vアバター1人、顧問としてゲームプロデューサーの方1人に入って頂いています。
西山:学生の方は、みんな関大ですか。
山口氏:バラバラです。関西にある6つの大学から集まりました。全員、比較的友達が多かったため、コミュニティが広い状態でスタートできて、事業の加速がしやすくなりました。
西山:一緒にやろうってみんながどう集まったんですか。 山口氏:インスタで募集しました。
西山:本当!
山口氏:今っぽいですかね(笑)
西山:インスタで募集したら集まって、それで会社一緒に作ろうって親しくなるまでにどれぐらいかかったんですか。
山口氏:1年半ぐらいです。大学に入って、半年ぐらい経ってから、様々なアイデアコンテストやビジネスコンテストに、出場しまくっていて。それらに一緒に出てくれるメンバーの募集をかけたときに、現在取締役の3人が集まってくれました。そこから、コンテストで勝ったり負けたりと楽しんでいる1年半を過ごし、コロナがきて、最初のゲームを作りました。
西山:なるほどコロナが来るまでにそういう繋がりができていたのですね。この方たちの中で役割分担どうしてるのですか。
山口氏:役割分担は、企画が3人、デザイナーが3人、他が営業と組織のマネージを担っています。また、デジタルエンターテインメントプロデューサーのアダチさんに顧問をお願いしています。アダチさんは、元々自分でゲーム会社を経営していて、有名なタイトルを多々手掛けられているので、アダチさんがこれまで貯めてきたエンタメコンテンツのノウハウを、SNSネイティブ世代の感覚で再解釈してアウトプットする、というスキームで企画や事業を作るという手法を試しています。
ゲームエンターテインメントの考え方をBtoBのビジネスに応用
山口氏:何もなかった僕らですが、人狼コロシアムというゲームを一から作ったことで、資金調達〜開発〜販売〜プロモーションまで一貫して行うノウハウが手元に残りました。それらを活かし、デジタルエンターテインメントの力で子どもの自信を育てる「キッズプロジェクト」とアライアンスを組み、東証プライム上場企業の積水化学工業様向けのゲーム企画のお仕事に取り組ませていただくことになりました。
積水化学工業様は、SDGsにおいて日本でトップクラスの取り組みを実現されている会社で、働いておられる方々のご家族に、社としての取り組みをもっと知ってもらうためのコンテンツを要望されていました。そして、その解決とSDGs学習を同時に達成するデジタルゲームとカードゲームを合わせたツール「セキスイカルタ」を共同開発しました。これが、初めてのBtoBでのお仕事でした。
このセキスイカルタの開発以降、企業の暗黙知からルールや再現性を見つけ、ゲームのシステムに落とし、それをプレイするだけで、企業が長年かけて培ってきたノウハウや思考回路を若手社員が楽しみながら学べるツールの開発や、大阪産業局様と連携し、関西から若手の起業家を増やすための企画を一緒に考えさせていただきました。 具体的に、大阪産業局様と実施した取り組みの一つが「究極の二択」というリアル体験イベントです。このイベントの主な参加者は大学生で、出題される「究極の二択問題」や「究極の三択問題」から答えを選んでいただき、なぜその選択をしたのか考え、各々の物事の判断基準を解き明かしていくというものです。その後、参加者は「究極の0択問題」に取り組みます。究極の0択問題では、解決が困難な社会課題が出題されます。
課題に対して、自分なりの価値基準を持って、解決策を考えて発表するという流れを、「究極の二択」というテーマの中で自然に作りました。そうすることで、元々人前に立って自分のアイデアをプレゼンテーションをすることに抵抗がある人たちを、擬似体験を通じて起業見込み層へと変えていくことを狙いとしていました。このような取り組みを、年間を通じて何度も実施させていただいております。こうした実践の中で、ゲームやエンターテイメントの考え方を、別の課題に応用することが自分たちの強みなのかもしれないと、気付きはじめました。
青春奪還作戦というタイムスリップ型キャリアイベントがバズる
山口氏:また、自社企画で「青春奪還作戦〜もしも一度だけあの日に戻れるなら〜」という、大学生が1日だけ高校時代にタイムスリップできる体験を提供するキャリアプログラムを運営しています。これは、進路に迷っている大学生を対象とし「そろそろ進路を決めないといけないが、何もやりたいことがない」という状況を解決することを目的につくりました。
大阪、東京、長崎など全国各地の廃校を舞台に、制服を着て、チャイムが聞こえ、授業を受けたリアルな“あの日“を再現しました。ここで生み出したい現象は「ほんまに高校時代まで戻れるんやったら、芸人目指してみたいな〜。今からでもいいんかな。」というものです。
これがTikTokでバズり、動画のコメント欄を見てニーズを確信しました。
西山:これはどこがスポンサーなんでしょうか?
山口氏:採用支援の会社さんを中心に、活動理念に共感して下さったたくさんの方々が支援してくださいました。学校の教室を一つの広告の場として活用し、世界観を崩さないことに注意しながら、よく教室に貼ってあるプリント等の掲示物の一部を会社さんPRになるものへ変えました。
藤井:映画でやるようにですね。
山口氏:参加者は、クラスメイトという設定で参加するので、参加者同士がかなり仲良くなり、同窓会のようなコミュニティができあがります。このコミュニティのための、新しいゲームやコンテンツを作り、また喜んでもらったり、応援してくれたり、クラウドファンディングを支援してくれたり…みたいなモデルが期待できます。このような、若者の心が揺れるプログラムと、若者が喜ぶプロダクト開発の二刀流で、自社事業を運営しています。そこで集まるデータやノウハウを応用して、BtoBでのお仕事もしています。
起業を後押しした過酷なイノベーションキャンプ、そして大学からの支援
西山:大学の支援ということについてもお聞きしたいのですが、大学にはどんなご支援をしてもらっていますか。
山口氏:起業の決め手となったのは、関西大学が主催しているアントレプレナーシップ醸成プログラム(イノベーションキャンプ)です。そこには、起業などスタートラインでしかないと口を揃える大先輩方がいて、「もう十分準備できてんじゃん、早くやっちゃいなよ」と軽い口調で言っていただいたことが、僕にとっては衝撃が大きかったです。その一言で、一気にハードルが下がったような気になり、すぐに株式会社を設立しました。また「夢サポ」という支援制度により30万円を頂き、開業資金とさせていただきました。
今後の展望
西山:今後組みたい企業とか、こういう機会が欲しいとかありますでしょうか。
山口氏:たくさんありますが、やはり狙いたいのは各領域、各産業の知見やノウハウを楽しく応用して、若手が人生決める前に試せるようにすることなので、そのために、今まで関わったことないジャンルの企業さんとお仕事がしたいなとずっと思っています。会社の規模にはこだわっていないです。
西山:なんか山口さんの話を聞いてるだけでドラマになりそうだと思ってくれる大人は多いんじゃないかな。本日はどうもありがとうございました!
取材を終えて:今の若者が直面する課題に対して、深い共感に基づき、受け入れやすく魅力的なエンタメコンテンツを制作しているのが現役の大学生としての強みです。課題を解決する力量は、 『人狼コロシアム』や企業研修のコンテンツ制作を始めとして実証されています。インスタグラムでメンバーを集め、SNSで集客をするなど、まさに今時。今後、様々な分野の企業と連携して、さらに幅広い課題に取り組まれるのを楽しみにしています。(ライター 藤井 拓)
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