関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は持続可能な社会の実現に向け、革新的な新型風車の開発を進めている、WINDシミュレーション株式会社の代表取締役、中田 秀輝(なかた ひでき)さんにお話を伺いました。
取材:西山 裕子(生態会事務局長)、濱本智義(学生スタッフ)
レポート:濱本智義
代表取締役 中田 秀輝
長岡技術科学大学大学院 工学部 機械システム工学 修了。
2019年9月まで、約35年間パナソニックに在籍。プロジェクトリーダーとしてDVD、BD、燃料電池などの事業化に携わる。
これまで約300件の特許出願を経験し、特許登録は100件を超える。
■「新型風車」が再生可能エネルギー社会の"カギ"となる
西山:まずは、御社の事業概要を教えていただけますか。
中田:私たちWINDシミュレーション社は、脱炭素社会に貢献すべく、微風・暴風でも効率的に発電のできる「迎角・翼径制御直角型小型風車(以下、「新型風車」)」を開発しています。またそこで用いられる流体解析技術を応用し、理論構築や気流シミュレーション、その他CAEおよび機構設計のコンサルティングなど幅広く事業を展開しています。
濱本:「新型風車」と従来の風車との、違いは何なのでしょうか。
中田:みなさんが風車と聞いて想像するのは、次のような写真ではないでしょうか。
この風車は、「水平型風車」と呼ばれる風車の一種です。一般的にこの「水平型風車」の強みは発電効率が良いことだと言われているのですが、一方で、暴風時は停止せざるを得ないという大きな欠点を持っています。そのため、台風や暴風の多い日本においては、決して発電効率が良いとは言えません。また、騒音や導入コストが高いといった課題も残っています。
対して、私たちが開発した「新型風車」は、従来の風車と比べて、微風・暴風でも効率的に発電することができ、音も静かで、導入コストも低いといった特徴があります。
次の図をご覧ください。これは「迎角制御ありの新型風車(赤)」と「迎角制御なしの水平型風車(青)」の発電量を比較した図です。
この図でも示されているように、「迎角制御ありの新型風車(赤)」の方が「迎角制御なしの水平型風車(青)」と比べて、通常風速時には10%、暴風時には50%以上もの発電効率の改善が見込まれています。
濱本:「新型風車」はまさに従来の風車が抱えている課題を解決する、次世代の風車ということですね。
西山:ところで、国内の風車市場はどのようになっているのでしょうか。
中田:近年、風車事業を行う会社は徐々に少なくなってきました。2019年には、日立や東芝が風車市場から撤退し、大型の風車は現在全て輸入に頼っている状況です。この背景には、従来の技術だけでは採算が取れなくなってきているという現状があります。
先ほども申し上げた通り、「水平型風車」は台風や暴風の多い日本では発電効率が大幅に減少してしまいます。また、「垂直型風車」はこれまで国の補助により、発電効率が低くてもある程度採算が取れていたのですが、その補助が大幅に削減されたため、ほとんど販売されなくなりました。他にも、暴風時にだけ発電する「マグナス型風車」という風車があるのですが、用途が限定的で普及は進んできません。
このように、従来の技術だけでは効率的な発電ができず、採算が取れなくなっている現状にあります。したがって、政府の補助に頼らない、高発電効率の風車が今の日本に求められているのです。
私たちが開発した「新型風車」は、まさにこれらの課題を解決する、新世代の風車だと確信しています。
濱本:もしこの風車が商品化できれば、破壊的イノベーションが起きそうですね!
■会社員時代のあるアイデアから始まった物語
西山:起業されたきっかけは何ですか。
中田:パナソニック時代に培った専門技術を活かして、何か開発できないかと考え始めたことがきっかけでした。
会社員の頃は、光ディスクや燃料電池の開発に携わっていました。光ディスクはモーターを利用してDVDなどのハードディスクを回転させるのですが、風車も同様に、モーターを利用して羽根を回転させる構造になっています。このように、光ディスクの開発に用いられる技術と風車の開発に利用される技術は非常に類似しているのです。
私はそのことに気づき、どうすれば風力発電の効率を高めることができるのだろうかと、風車に興味を持ち始めました。あれこれ考えているうちに、独自の計算理論を作って学会で発表するなど、再生可能エネルギーの分野に徐々に深入りしていきました。そんなこんなで定年になり、そのタイミングで会社を設立しました。
西山:会社員の頃から、起業を考えられていたのですね。
中田:そうですね。会社を立てる前から、風車に関する特許をいくつか所有したりと、起業の準備を少しずつ進めていました。
濱本:プロフィールによると、これまで約300件の特許出願を経験されたそうですね。技術力の高さと周到な計画力を感じます!
■一家に一台、風車がある未来
西山:世界各国で脱炭素化が進んできますが、再生可能エネルギーとして風力発電は今後どのようになっていくのでしょうか。
中田:皆さんご存知の通り、再生可能エネルギーとして太陽光発電と共に注目されているのが、この風力発電です。風力発電はCO2の排出量が少ないのはもちろん、夜でも発電できるため、太陽光発電と比べて発電効率が高いという特徴があります。また、陸上だけでなく洋上にも設置でき、用途によって大きさや機能を変えることでどこにでも設置することができるのです。
実際に世界の電源構成予測では、風力発電の割合は上昇し続け、2050年には全発電の25%を占めると予測されています。
濱本:最近、太陽光パネルを設置している家を見かけることはあるのですが、なぜ風車は一般家庭に普及していないのでしょうか。
中田:一般家庭に普及しない理由は、騒音と暴風の問題が関係しています。これまでも指摘した通り、従来の風車は音がうるさく、暴風時に発電できないという大きな難点があります。その上、導入コストも高いため、一般向きの発電ではないと考えられてきました。
しかしながら、私たちの開発した「新型風車」は、従来の風車が抱える課題を克服しており、一般家庭への普及も事業展開の選択肢として可能ではないかと考えています。将来的には、「一家に一台、風車」と言われる時代が来るんじゃないかと、ワクワクしています。
取材を終えて:再生可能エネルギーとして風力発電は全発電の25%を占めており、大きな将来性を秘めた市場である。そのなかでもWINDシミュレーション社製の小型風車は、従来の風車と比べて効率性・安全性が高いといった技術的な優位性に加え、導入コストが低いという特徴がある。この新世代の風車は、パナソニックの社員として長年培っていきた中田氏の知識と技術の集大成といえよう。もしこの風車の導入が進めば、脱炭素社会の実現も可能となるのではないだろうか。(スタッフ:濱本)
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