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  • 執筆者の写真大洞 静枝

アプリで気軽にメンタルケア!AIとの会話から、認知行動療法を可能に:emol

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家たち。今回は、メンタルケアアプリ「emol(エモル)」の開発、運営を行っているemol株式会社代表取締役COO 武川大輝さん にお話を伺いました。

      取材・レポート:西山 裕子(生態会事務局長)、大洞 静枝(ライター)


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代表取締役CEO 千頭 沙織(ちかみ さおり)氏 略歴:1990年大阪生まれ。大学でファッションデザインを学び、2014年にWebサイトやアプリ制作を手がける会社を設立。 2018年にAIとチャットで会話をしながらメンタルケアをするアプリ「emol」をリリースし、2019年にemol株式会社を設立。


代表取締役COO 武川 大輝(たけかわ だいき)氏 略歴:1990年大阪生まれ。大学でプロダクトデザインを学び、アプリ制作会社にてデザイン業務を担当。退職後に千頭氏とemol株式会社を共同で創設。


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生態会事務局長 西山(以下、西山):本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、創業のきっかけについて教えてください。


代表取締役COO 武川大輝氏(以下、武川氏):emol株式会社の共同創業者である代表取締役CEO 千頭沙織の原体験がきっかけです。千頭は大学の時にメンタルを崩しました。メンタルヘルスの一般的な治療は、通院やカウンセリングですが、千頭は当時、なかなか人に相談ができませんでした。人に頼らずに治療する方法があればいいなという発想からつくられたのが、「emol(エモル)」というメンタルケアアプリです。


リリース直後から、かなりの反響があり、あっという間に10万ダウンロードを達成しました。この時はまだemolを創業していません。必要な人たちの元に、しっかりと届けていきたいと思いから、2019年3月に会社を立ち上げました。


メンタルケアアプリ「エモル」


ライター大洞(以下、大洞):emolの創業前は、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?


武川:前職は、クライアントワークです。Web制作に携わり、システム構築やアプリデザインなどを行っていました。開発やデザイン、マーケティングのノウハウを持っていたので、それをそのままアプリに活用しました。エモルのアプリは、自社開発です。初期の頃は千頭が1人で開発を担当していました。


大洞:アプリが10万ダウンロードということでしたが、すごい反響ですね。


武川:広告を出していなかったのですが、検索から利用者が入ってくるという状況で、目に留まった方に、次々とダウンロードいただきました。


認知行動療法に基づいたセルフケアのプログラム


大洞:反響の大きさから、emolを創業されたということですが、具体的な事業内容を教えてください。


武川:エモルというアプリはAIロボ「ロク」と会話することで、日々の感情を記録することができます。頭の中を整理しながら、自身の感情と向き合うことで、セルフケアを可能にします。リラクゼーション機能では、一緒に深呼吸をすることも。認知行動療法がベースとなっています。


企業にも導入いただいています。従業員が、認知行動療法に基づいたセルフケアのプログラムを行い、組織全体で健康の向上を目指します。ただアプリを提供するだけでは、使いこなしてもらえないので、企業ごとに健康課題の洗い出しを行い、指標を定めています。さらに、アプリを使った後は効果検証をし、解析。次のアクションとして必要な事項をアドバイスする、というところまでが一連の流れで、半年スパンで実施しています。

COO 武川大輝氏

西山:導入した企業の反応をお聞かせ下さい。


武川:2022年に導入した三菱電機株式会社では、認知行動療法をチャットボットと一緒に行うプログラムを実施しました。様々な指標から、どのような効果が出たのかを検証しました。詳しい内容は申し上げられませんが、良い結果となりました。アプリを使うことによって、メンタルヘルスの課題を、ある程度解決できることがわかりました。


企業のメンタルヘルスの課題解決というと、アンケートに答えてデータで可視化したり、外部の相談窓口でカウンセリングをしたりと、現状分析が主流です。しかし、私たちが行っている効果検証は、抑うつや不安といった尺度を測るとともに、アプリを使用前後の回答をデータ化して分析し、結果をレポートとして報告することができます。従業員のメンタルヘルスケアにも寄与できますし、セルフケアを従業員に普及させることによる効果を、対外的にアピールすることも可能です。人的資本経営という考えにも適しています。

西山:企業でアプリを使用するのは、従業員全員が対象ですか?それとも、精神疾患等で休職している方のみが対象ですか?

AIロボ「ロク」と会話しながらセルフケアができる

武川:基本的には、前者に近い形で利用いただいております。企業側はメンタルヘルス対策として、希望者にメニューを用意しています。カウンセリングでもセルフケアのアプリでも、申し込めば利用ができます。


西山:三菱電機では、実際に何人くらいの社員が利用されましたか?


武川:まずは導入として、部署や場所を区切って、一部の従業員に使っていただきました。400人ぐらいです。解析した結果、アプリを使っていない方と比べて、使った方が、いくつかの指標で良い結果が見られました。


西山:400人のうち、何割くらいの方に効果がありましたか?


武川:詳しい結果は申し上げられないのですが、いくつかの項目において統計的に有意な結果が得られました。

大洞:どのように分析されているのでしょうか? 武川:メンタルケアの内容は、チャットボットとの会話プログラムで、全8週間のセッションです。1回30分程度、チャットボットから説明を受けたり、考え方の練習をしたりします。効果の測定は、プログラムを行う前と後の計2回。Webでアンケートを取っています。


WHOで使用されているWHO-HPQ(Health and Work Performance Questionnaire)という測定方法です。プレゼンティズムを測ることができる信頼性のある尺度です。他にも、抑うつや不安の尺度なども用いていました。

左:生態会 事務局長 西山 右:武川氏

西山:プレゼンティズムについて教えてください。


武川:プレゼンティズムは、従業員のパフォーマンスに焦点を当てた生産性評価の指標です。例えば、会社には来ているけど、メンタル状態が良くない傾向にあると、生産性が低下しますよね。勤務中の生産性や出来高、やる気などを指します。



医療機器としてのアプリを開発中


西山:治療用のアプリも開発されていると、お伺いしました。


武川:現在、臨床研究を進めているところです。精神疾患を治療する医療機器として、保険適用までを目指しています。海外では、既にアプリでの治療は行われているのですが、日本ではようやく先行事例が出始めたところです。


大洞:小中学校での利用や、妊産婦向けの活用事例もあるようですね。


武川:小中学校向けアプリについては、2022年に岡山県津山市教育委員会とNECネッツエスアイ株式会社で「AIチャットボットを活用した児童の心のケア」の実証実験を行いました。朝と夕方のホームルームで、生徒が体調や気分等をタブレットに入力。先生が確認し、生徒とやり取りすることで、体調やメンタルサポートを行います。


妊産婦さん向けには、自治体の母子健康窓口を経由して、妊娠期間中にプログラムを行ってもらい、産後うつを防ぐ取り組みを2年がかりで研究しました。神奈川県平塚市に、2023年1月から導入いただいております。アプリを利用することで、産後うつの兆候を見つけたり、不安な気持ちを和らげたりするといった効果があります。利用者のメンタル向上が効果として発表されています。

親しみやすいUIやキャラクターもエモルの魅力

西山:企業や小中学校、妊産婦さんが利用するアプリやプログラムは全て同じでしょうか?


武川:アプリは全部同じです。企業向けであれば、健康の増進といった、ウェルビーイングに近いプログラムが組まれています。妊産婦向けのプログラムは、予防的なアプローチ。病気の治療に対しては、認知行動療法プログラムが上乗せされ、会話内容も疾病に特化した内容になっています。ベースのアプリは同じですが、コンテンツや内容は変えています。


西山:専門機関とつくられているのでしょうか?


武川:妊産婦向けのプログラムは早稲田大学と、治療用のプログラムは兵庫医科大学と開発しています。


デジタル療法を牽引する存在に


西山:順調に、事業が拡大しているようですね。競合他者はいますか?


武川:最近、類似のアプリが出てきているのですが、効果検証までできているところは、ほとんどありません。アメリカのWoebot Healthが開発するアプリのチャットボットでは、認知行動療法を受けることができます。産後うつにおけるデジタル療法として、FDA(米国食品医薬品局)から画期的医療機器/デバイス指定(Breakthrough Device Designation)を受けています。日本はまだ黎明期なので、弊社がフラッグシップとしてやっている自負があります。


西山:正式に医療機器としてのアプリとして、認められる日も近そうですね。


武川:精神疾患には治療ガイドラインがあり、治療の第一選択肢に薬物療法、認知行動療法があります。例えば、社交不安という不安症の代表的なガイドラインでは、18歳以上で併存精神疾患がない場合は、薬物療法か精神療法となります。


精神療法は認知行動療法で、「社交不安に特化した認知行動療法を習熟した治療者が実施する」と記載されていますが、ほとんどできていません。さらに、対面による治療を患者さんが希望しない場合は、「認知行動療法にもとづくサポート付きのセルフヘルプ」が必要になりますが、まだ日本には書籍による方法しかありません。ガイドライン上では定められているけど、追いついていないのが現状。精神療法であるセルフヘルプの普及を、医師たちも望んでいます。


認知行動療法は、行動や考え方を変えていくという治療法なので、再発を防げます。薬を飲んで症状を抑えながら、認知行動療法で根本も直すという併用療法が、今、一番いい治療方だと言われています。

左:武川氏 右:西山

精神疾患の治療は、今は薬しかありません。カウンセリングは、効果がなかなか出ず、途中で通わなくなってしまう方も多いです。対面ではない、セルフヘルプのソリューションとしてエモルを選んでいただいて、精神疾患の治療に貢献できればと思っています。


西山:日本でも、人を介さない精神療法が気軽に受けられるようになるといいですね。本日は、どうもありがとうございました!

 

取材を終えて:代表の千頭氏は自身のメンタル不調を経て、「若者向けに心の拠り所になるアプリを作りたい」という想いから、emol株式会社の創業前にアプリを開発しました。リリース後は広告なしで10万ダウンロードを達成。反響の大きさから会社設立に至りました。2021年には京都市主催の公民連携・課題解決推進事業「KYOTO CITY OPEN LABO」に採択。2023年1月には神奈川県平塚市が産後うつの早期予防に向けてアプリを導入し、利用者のメンタル向上が効果として発表されています。人的資本経営を実践する企業からの注目度も高まっています。(ライター 大洞)


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