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  • 執筆者の写真濱本智義

定額制絵画レンタルサービスでアートの「民主化」を目指す: Casie

「関西スタートアップレポート」で紹介している注目の起業家。今回は、定額制絵画レンタルサービスで「アートの民主化」を目指す株式会社Casie代表取締役 藤本翔(ふじもとしょう)さんです。

取材:森令子(生態会事務局)、濱本智義(学生スタッフ)

レポート:濱本智義

藤本翔 代表取締役 略歴

1983年大阪生まれ。生涯画家を貫いた亡き父が、作品発表の機会を満足に得られず苦労した姿を幼少期に体験し、幼いながらに、アートを流通させるサービスを自分の手で作ることを決意。総合商社と戦略コンサル会社でのキャリアを経て、2017年(当時34歳)に株式会社Casieを創業し、代表取締役に就任。才能ある画家が経済的理由で創作活動を断念する現在のアート業界の課題を解決するため、新しいアートのエコシステムを考案。これまで2度に渡って、計約1億7000万円の資金調達を実現。

 

生態会 森(以下 森):本日はお時間いただき、ありがとうございます、まずは、事業概要を教えてください。


株式会社Casie藤本さん(以下 藤本):絵画レンタルのサブスクリプションサービス「Casie」を展開しています。月額1980円から、季節や好みに合わせてお好みのアートを購入なしでレンタルし、アートのあるオシャレなインテリアを気軽に実現できます。どの作品でも追加料金なしでレンタル可能、交換し放題です。補償付きで、もし汚したりしても修繕の負担はありません。ユーザーにとっては”アートのある暮らし”を気軽に実現できるサービスであり、アーティストにとっても、活躍できる場を創造し未来のファンと結びつける仕組みとなる、アートの新しいエコシステムとして「Casie」を広めたいと考えています。


2020年春以降、新型コロナウィルスの影響も相まってユーザー数が急増し、現在およそ4000名の方々が利用しています。また、本サービスは約650名のアーティストが登録していて、その作品数は8000点以上にも及びます。



 私たちのビジョンは「アートの民主化」です。このサービスを100万世帯で使われるようなマスサービスに成長させたいと考えています。


:実際に、ユーザーは何千もの作品から、どのように選んでいるのですか?


藤本:ユーザの特性や好みに応じたリコメンド機能を導入していて、それを利用していただいています。具体的には、アンケートで簡単診断し、絞り込んだ24作品を提案しています。


 診断結果は北欧インテリア系、現代アート的な抽象画、写実性の高い風景画などの11パターンに分かれます。他にも、お気に入りの作品をストックする「いいね」機能があり、後から自由に見返すことができたりと、本サービスはユーザと作品のマッチングを重視したUXになっています。さらに、作品を交換したい時はいつでも交換が可能です。


生態会学生スタッフ 濱本(以下 濱本):これほど膨大な作品の数々を、どのように集めたのですか?


藤本:アーティストにとって、作品を預けるだけで継続的に収入が入る”魔法”のようなサービスにしたいと考えています。アーティストは作品を制作したら「Casie」に送るだけです。私たちは預かった作品を撮影し、サイトに掲載し、レンタルのための梱包から発送、購入希望があった場合は販売まで、全て行っています。つまり、マーケティングやセールスを私たちが代行することで、アーティストの手元に溜まっていくだけだった作品が世の中に流通するのです。


 アーティストにはとにかく”描きまくって”ほしい。その作品を「Casie」に届けたら「いつのまにかお金がたまっていたわ〜!」という世界を実現したいです。現在すでに、月30万円以上稼いでいるアーティストもいます。


:どのようなアーティストと一緒にやるか、どんな作品を集めるかが大切そうですね。


藤本: ”作品を集める”と言う重要な機能は、アーティストサクセスチームが担当しています。現在、1ヵ月に1000作品のペースで登録作品を集めており、選定基準は以下の3つです。


①ユーザー属性とのマッチング

②アーティストのストーリー

③画力


特に重要なのは①ですね。私たちのユーザは大半がアートビギナーで、賞を受賞するような芸術性が高い作品が、必ずしも受け入れられるわけではありません。ユーザとより近い感性を持つアーティストを審査で選定しています。現在は、毎日約20名からエントリーがあり、そのうち3割程度が審査を通過しています。


:なるほど、これまでのアート業界の基準にはとらわれず、サービスとして考え抜かれているんですね!このサービスを作ろうと考えた経緯を教えてください。


藤本:私の父は生涯孤高の画家でした。幼い頃、個展のビラ配りをしたりとよく父の手伝いをしていました。しかし、父の作品は売れるどころか、個展に来場する人も全くいませんでした。そして父は、当時34歳という若さで人生を終えました。私は、そのような父の姿を近くでみたり、父の周りのアーティストが結婚などを契機に夢をあきらめサラリーマンになっていく姿を目の当たりにして、幼い頃からやり切れない気持ちを抱えていました。才能が次々に潰されていていくことに、怒りに近い感情を覚えたのです。


 アーティストは創作に多くの時間を使うので、作品を流通させるすべを知りません。幼いながらにそのことを体験した私は、将来、アーティストの才能の世の中に届けるサービスを自分の手で作ろうと決心していました。そして大学卒業後、総合商社の営業を2年間、戦略系コンサル会社に9年間勤め、父が亡くなった年齢と同じ34歳で起業しました。


創業メンバー3人(中央が藤本氏)

濱本:芸術家で生計を立てるのはそんなに難しいことなのですね。


藤本:はい。日本で唯一の国立総合芸術大学である東京藝術大学は、受験者数1600名に対して55名しか合格しません。にもかかわらず、芸大を卒業しても、芸術で生計を立てられる人はほんのわずかで、とにかく”超有名”になるしかない、本当に厳しい状況です。例えば、お笑い芸人だったら、テレビで人気の超有名人でなくても、営業など”お笑い”で稼ぐほかの方法がありますが、芸術家には”超有名”以外の道がないのです。


 素晴らしい才能があるのに、経済的理由でアーティストとしての道を断念せざるを得ない方々が世界にはたくさんいます。私たちは、アートが好きで才能がある若いアーティストに創作活動を諦めてほしくないという思いから、このサービスをつくりました。


:過去に2度、計約1億7000万円の資金調達を実現したそうですが、何が成功の元だったのですか?


藤本:素晴らしい投資家、投資ファンドの皆さんのおかげです。特に株式会社KVPの長野さんには大変お世話になりました。ユーザー数1桁、それも知人ばかりが使っている”どスタートアップ”だった頃にシード出資していただき、その後も投資ラウンドごとに最適な方々を紹介してくださっています。今振り返っても、当時なぜあの状況で出資していただけたのか疑問ではありますが、東京から熱心に会いに来てくれて、本当にありがたかったです。


 私たちのような全く新しい市場を作るビジネスは、市場規模も競合もなく、VCなどが非常に評価しにくいのです。キャピタルゲイン重視の投資家には興味を持たれにくいですが、社会に新しい価値を見いだすことを目指している投資家とは、会ってすぐ意気投合し、出資が決まることもあります。そういった方々のおかげもあり、こうして今、同じ目標を持った社員9名(アルバイトを含めると計41名)が集まる企業へと成長できているのでありがたいです。


Casieオフィスにて。アートに囲まれ、皆さんがイキイキと働く素敵なオフィスでした!

:今後の展望を教えてください。


藤本:コロナ禍で在宅時間が増えたことから、毎月300名から500名のペースでユーザー数が急伸しています。今後もエンジニアやカスタマーサービスを積極的に採用し、新規ユーザー獲得を優先して動いていきます。また、個人住宅に加えて、飲食店やオフィスなどの法人営業にも力を入れていこうと考えています。


 自社には営業部門がないため、オフィスデザイン会社や、法人営業の代行会社(BtoB市場開拓)、引越し業者や家事代行会社(個人住宅開拓)といった企業との協業も考えています。また、物流見直しも必須なので、物流会社とも組んでいきたいですね。

 

取材を終えて:アート業界の課題に対する強い思いだけでなく、考えられた戦略で着実に成長を遂げている株式会社Casieは、スタートアップの見本のような企業だと思いました。藤本さんのアートに対する原体験と、商社やコンサルで培われたビジネス経験がうまく融合していることにも感心しました。お話によると、アルバイト含め社員がまだ1人も止めていないそうです。すばらしいチームワークが現在の成長につながっているのでしょう。この取材を通して、熱意ある投資家や企業がこぞって出資する理由がよく理解できました。(学生スタッフ 濱本)



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