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質量分析イメージングのトータルソリューション:ミルイオン

関西スタートアップレポートで紹介している注目の起業家。今回は、大阪府茨木市で創業した阪大発バイオベンチャー株式会社ミルイオン代表取締役、小竹和樹さんにお話をお聞きしました。小竹さんは大阪大学工学部在籍中の2019年12月に質量分析イメージング(以下MSI)の第一人者、新間秀一准教授とともに会社を設立されました。創業から1年未満にも関わらずアメリカ展開も進行中でグローバルな成長が期待されるスタートアップです。取材はミルイオン所在地の彩都バイオヒルズイノベーションセンターにて行いました。

取材:森令子(生態会事務局)

レポート:八木曜子(ライター)



小竹和樹(おだけ かずき)代表取締役 略歴

大阪市出身。大阪大学工学部応用化学コース在籍中の2018年に、学内の会合で新間秀一准教授と出会い、MSI技術の可能性に魅了され起業を決意。大阪大学産学共創本部の事業化グラントの一つとして、2019年12月、新間准教授とともに会社設立。

生態会 森(以下、森):本日はお時間いただきありがとうございます。ミルイオン小竹さんには、2019年9月の生態会主催のピッチイベント「第2回スタートアップ誕生!」に登壇いただいたご縁がありまして、お久しぶりです!早速ですが、現在、どのような事業をされているのか教えて下さい。


ミルイオン 小竹(以下、小竹):当社は質量分析イメージング、MSIといわれる分析の研究開発、事業化をしています。MSIとは薄く切った試料表面を前処理し、質量分析という分析法を用いて試料表面に存在する成分をイオン化し、その分布情報を「見る」方法です。試料の断面を1枚の画像情報として、どこにどんな分子があるかを分析できるのです。2019年12月に法人化し、正式に事業を開始、正社員2名と私と取締役として新間教授という4名体制で、現在は、分析受託がメイン事業です。


森:最先端分野の研究を事業化されているのですね。どのようなところから、受託の依頼があるのですか?


小竹:製薬会社と大学などの研究者がメインですね。製薬会社からは、自社の検査の信頼性を評価するため外部分析に出したいといった依頼や、これまで調べられなかったことを、純粋にMSIで調べたいといった依頼が多いです。

八木:MSIのメリットを教えてください。


小竹:現在の一般的な検査手法は、血液など体液を使った手法です。例えば、がんの診断では血中のがん由来の遺伝子変化などを調べたり、薬剤の効果なども血中濃度を測定することが多いです。MSIでは、画像として「見る」ことができるので、その薬剤ががんの周りに蓄積しているだけなのか、本当にがんの部位に到達しているのかといった、細かい分布までひと目で分かります。さらに、測定効率もよくコストも削減できます。


八木:「見える化」でいろんな可能性が広がるんですね!MSIにおける御社の強みはどこですか?


小竹:新間はMSI研究の第一人者で、物理的にもソフトウェアの観点からも誰よりも詳しいです。島津製作所がMSI分析機器「iMScope TRIO」を開発したのですが、そもそも、この機器自体が新間との共同開発です。当社も「iMScope TRIO」を使っていますが、この機器自体が世界中で広まりつつあり、MSIという手法自体が今まさに市場が伸びている段階です。我々には、新間の研究を中心に蓄積した数多くの知見や技術があり、試料の前処理方法など数件の特許を申請しています。ある意味、職人技のような手順やノウハウも多く、社外秘情報も多いです。そのような我々の強みを高く評価していただき、島津テクノリサーチさんとの提携も実現しています。



八木:MSIの市場規模はどれくらいですか?


小竹:質量分析分野全体では3,000〜4,000億円という調査があります。MSIに関しては、島津製作所以外の機器も含めて、まだ、国内に分析機器は十数台程度ではないでしょうか。MSI自体が、まだまだ知られておらず、我々自身が広めていく必要があります。とはいえ、初年度の今年から、すでに大型案件も受注するなど順調に売上を伸ばしており、強いニーズを感じています。


:受託以外の事業も検討されているとお聞きしています。どのようなビジネスプランなのでしょうか?


小竹:MSIでの毛髪診断を事業化するため、研究や事業準備を進めています。健康診断などで行われている体液での検査(尿や血液)は、食事制限や提出の手間など、多くの不便がありますよね。毛髪は検体提出も比較的気軽ですし、健康状態や薬物接種の有無など、様々な情報が長期間残ります。毛髪をMSIで「見る」ことで、何ヶ月前あるいは何日前に、どんな健康状態だったか、どんな薬物を使用したかを調べることができます。我々は毛髪のMSIで、まずは違法薬物検査の分野に進出、さらには、ストレス・うつ病、最終的にはがん・認知症などの診断も毛髪一本で可能にしたいと考えています。毛髪での違法薬物検査については、すでにPOC*を得ています。毛髪診断は多くの手法が開発されていますが、MSI以外では、毛髪を粉砕して抽出するため毛髪が100本単位で大量に必要なんですね。我々のMSIでは、独自の技術により、毛髪中心の髄(メデュラ)見ることができるので、毛髪1本で精度の高い診断が可能で、検査時間も大幅に短縮できます。このMSIの毛髪分析については、特許を申請中です。

*Proof of conceptの略。研究の有用性・効果が、動物やあるいはヒトで認められること。


:検査がより簡便になり、精度も上がるということですか。すごいですね!


小竹:そうです。ほかにも、尿や血液では、体調や薬物の状況を調べるにしても2週間程度しか遡れません。毛髪は、より長期の経時的変化を見ることができるので、例えば、ある神経伝達物質Aがどのタイミングから変わったのかを分析することもできます。”ある域値を超えたら病気になる”ことを突き止めれば、診断が非常に簡単になりますし、自分自身の過去データと比較することで、従来の検査より精度高く診断できるようになるはずです。


:毛髪検査の事業化に向けての計画を教えてください。


小竹:まずは、アメリカでの展開を考えています。アメリカの大手企業と提携して、毛髪検査を実施していく計画です。実は、2020年11月には、アメリカに現地拠点を開設、現地のアドバイザーと連携し、調査や提携先の開拓を開始します。


:なぜ、アメリカなのですか?


小竹:違法薬物検査市場は2100億ドルという巨大な規模で、特に、アメリカでは、年間5000万件のemployee drug testing(従業員向け薬物検査)が行わるなど、非常に一般的です。違法薬物を使用している従業員は、業務効率が30%も下がり、欠勤率や事故率なども高くなることがわかっており、雇う側にとってデメリットが多く、アメリカの企業は薬物検査に積極的です。とにかく市場が大きく、我々の参入余地が多いにあると考えています。


:日本より先に海外で拡大しようというお考えなんですね!


小竹:そうですね。日本でのMSI事業拡大に向けても、色々検討しており、例えば、競走馬のドーピング検査なども有望な分野です。ただ、最先端の新しい技術なので、採用までのハードルが高いのも事実です。需要が大きい海外で実績をつくった方が、日本での展開も一気に進められると判断しました。アメリカでの違法薬物検査は、2年以内に事業化する計画です。現在の毛髪検査は1件100-120ドル程度の価格ですが、我々は1件80ドル程度の価格帯を想定しており、まずは、年間100万件の分析受注を目指します。

 海外進出を早期に実現しつつ、引き続き日本を研究拠点として、薬物検査だけでなく、健康診断、うつ病、アルツハイマー、がんといった分野の研究を行っていきたいと考えています。

  


:大きなビジョンでワクワクしますね!小竹さんは、元々、起業志向だったのですか?


小竹:それが、全くそうではないんです(笑)。2018年、大阪大学工学部応用自然科学科3年生のとき、応用生物学科の新間准教授と学内で知り合い、MSIについて知りました。調べるほどにMSIの可能性の大きさや、今が事業化すべきタイミングであることを強く感じ、起業の覚悟を決めたました。もともと、起業意欲はなく、まわりに起業家がいるわけでもなかったですが、迷いはありませんでした。でも、「サラリーマン金太郎」は好きでしたよ!


:新間先生との出会いがなければ起業されなかったんですね。覚悟して起業されたとはいえ、大変なこともあるでしょうね。


小竹:昨年の生態会のピッチイベント登壇の頃に想定していたのは、受託事業での拡大でしたが、現時点では難しいことがわかり、そこからは模索の時期でした。大学発ベンチャーとして大きな価値を生み出したいと議論を重ね、毛髪検査にたどり着きました。実は、研究を進めるには、検体の入手もネックなんです。違法薬物の検体はなかなか手に入らないし、その点でも海外が進むべき道だと考えています。


:コロナの影響はありましたか?


小竹:大手企業の実験が停止し、サンプルが入ってこなくなるなど、受託案件がほぼストップしましたね。2020年2〜7月ごろはキャンセルもありました。ですが、その間に毛髪検査の研究開発に専念でき、事業が大きく前進したんです。それは良かった点です。



:現在の拠点は、大阪・北摂、茨木市の彩都ですね。ここでの起業はいかがでしたか?


小竹:彩都はライフサイエンス系企業向けの補助金のほか、マッチングなどの支援も手厚く、研究開発や事業が進めやすい環境です。入居している彩都バイオインキュベータは、スタートアップだけでなく大手企業の研究施設もあり、現在はコロナでイベントなどは出来ませんが、入居者同士の交流も多く、よい雰囲気です。関西は大手製薬会社も多く、色々と動きやすいですね。


八木:関西ならではのメリットも大きいんですね。最後に、将来についてどのようにお考えかも教えてくください。


小竹:現在、大学は休学中ですが事業を軌道にのせてから復学し、専門分野を研究してPhDを取りたいです。海外で認められるバイオベンチャー経営者となるには、学位も重要視されますので(笑)。会社のビジョンとしては、あらゆる病気を未病で防ぎ、世界中の人々の健康寿命の延伸をサポートするために、毛髪検査をスタンダードにしたいです。コンビニやドラッグストアで、毛髪検査キットを買ってミルイオンに1本送れば診断できる、そんな形を実現したいです。


:今後を大変楽しみにしています。ありがとうございました。


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最先端技術を実用化し、アメリカ展開から日本での拡大を狙うというスケールの大きさ、また非公開ながら、売上見込みも順調な様子で、大きな可能性を感じたインタビューでした。拠点の彩都バイオイノベーションセンターは民間と公(大阪府、茨木市、中小起業基盤整備機構、国)の共同事業で、地元自治体の手厚いサポートが多く、今後も注目企業が生まれそうです。小竹社長は明るくチャーミングで意欲的で、この事業へかける思い、チャレンジへの心意気が伝わり大学だけでなく、VCや大企業などからのサポートがあることもとても納得しました。(ライター 八木)