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  • 執筆者の写真Seitaikai

起業家教育インタビュー:奈良先端科学技術大学院大学

更新日:2019年10月29日

取材:小川泰佑(生態会 学生ボランティア)、樺澤哲・森令子(生態会 事務局)

レポート:森



 生態会では、関西の大学を訪問し、起業家支援や起業家教育についてお聞きしています。

今回は、2019年9月26日に奈良先端科学技術大学院大学(以下NAIST)を訪ねました。(過去の紹介記事はこちら:大阪府立大学関西大学近畿大学関西学院大学京都大学起業部大阪大学


お話をお伺いしたのは、研究推進機構研究推進部 准教授/国際共同研究担当ディレクター 三宅雅人先生、客員教授 光井 將一先生です。(以下敬称略)



ー生態会(小川):今日はよろしくお願いします。初めて訪れましたが、僕の大学のキャンパスと実はとても近いので驚きました。


ー生態会(樺澤):三宅先生とは、私が大阪大学の北米センター長だった時に、サンフランシスコでご一緒してからのご縁ですね。本日は、生態会のためにお時間いただきありがとうございます。


NAIST(三宅):はい、よろしくお願いします。私は、NAISTの研究推進機構の准教授として、研究支援をはじめ様々なプロジェクトに携わっております。海外研究拠点の整備や運営、国際連携の推進なども担当しており、サンフランシスコとパリにあるNAISTの共同研究の拠点にも関わっています。もちろん、今日のテーマであるアントレプレナー教育にも力を入れています。


三宅先生(右)、光井先生(左)

ー生態会(小川):早速ですが、NAISTの起業家教育について教えてください。


NAIST(光井): NAISTでは「技術経営」という名で、ベンチャー教育を14年前から行っていましたが、6年前に文部科学省のEDGEプログラムに採択され、現在の「グローバルアントレプレナー育成プログラム GEIOT(ガイオット)」の形になりました。GEIOT は6月から8月の土日で完了するカリキュラムで、NAISTの学生は単位対象講義です。社会人や他大学生も受講可能(要受講料)としています。

 起業を見据えた実践的なプログラムで、受講生はチームで成果を出すための役割分担と運営を実体験し、ビジネスモデル構築にとどまらず、プロトタイプ製作やクラウドファンディング用ビデオの制作まで行います。これまでに、受講生のビジコン受賞や起業など多くの実績があります。大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪)での講義が中心で、学外での出会いや起業支援者との繋がりなども生まれています。


NAIST(三宅):NAISTは学部を置かない国立大学院大学で、情報理工学、バイオサイエンス、物質理工学とそれらの融合領域での、世界レベルの研究、そして高度な研究者・技術者育成に注力しています。約1000人の学生に対して、約200人の教員という恵まれた環境の中で、学生は皆、研究などに精力的に勤しんでいます。


GEIOTの様子(イメージ)

NAIST(光井):ただでさえ研究などで忙しい学生達なので、GEIOTではいかに効率的・実践的なカリキュラムにするか徹底的に考えています。なんとなくかっこいい姿を見せる起業家教育ではなく、自分の軸を見つけ「自分にしかできないことをやるんだ!」という強い意志を持ってもらえるよう、また、“起業を成功さ せる”教育ではなく“将来に成果を得る”教 育になるよう心がけています。人数が少ないので、手厚くできているというのもありますが、GEIOTに参加したある社会人受講生から「300万円のビジネススクールより価値があった」と言われたこともあります。


ー生態会(小川):とても充実した起業家育成プログラムなんですね! NAISTには起業部があるとのことですが、どのような活動なのですか?


NAIST(三宅):GEIOTの同窓会的な活動として、「上下・横のネットワークを作りたい」「在学中も卒業後も交流したい」という学生達が創部した正規のクラブです。約1年前にスタートし、現在約30名が新しいアイデア、ビジネスパートナー探し、繋がり作りなどのためにイベント開催など極めて”自主的に”活動しています。光井先生や私と定例会はしていますが、助言する程度ですね。


NAIST(光井):起業手法はGEIOTで学ぶので、起業部の目的は”視点の多様化”と”経営資源の共有化”につながるネットワーク化です。例えば、同じ技術でも利用可能性 分野が違えば、新たな価値を生むことが出来ます。一般に、技術専門性が高ま ると、他分野との交流が少なくなりがちなので、起業部を通じて学内のみな らず学外の交流機会も創ることは素晴らしい事です。実際に、「外注できるタスクを仲間に頼む」とか「契約書について経験者に聞く」など実務的な交流も生まれており、“大人”な起業部という感じです。


ー生態会(小川):大学の中に起業のシステムが構築されている、という感じですね。起業部の今後について何かお考えはありますか?


NAIST(三宅):起業部では、学生が迷った時、ゴールについて考えるやり方などを指導しています。コンセプトや将来像を学生がよく考え、部員で共有し、周囲を巻き込んで形にしていけるよう、助言をしたりといったことですね。NAISTの学生には主たる研究があります。起業部でネットワーキングしたい、でも起業の勉強もしたいし、研究もしなきゃとなって、結局、目的のネットワーキングができなくなる、といったことにならないよう、優先順位を考えつつ、理想に向かって不安や不足をサポートしあえる活動になればいいですね。


NAIST(光井):NASIT発ベンチャー企業が成功するのも素晴らしいですが、それだけでなく、起業部がハブとなって、近隣大学やアントレプレナー志向の学生、企業、行政、研究者を巻き込んでいきたいです。


ー生態会(小川):教授と学生という立場を超え、素晴らしい信頼関係のなか、最高のチームでより良い社会を目指していらっしゃるんですね。とても感動しました。 ほかに、学外からも参加できる起業家教育プログラムがあるそうですね。


CrossXCrossワークショップ(過去の様子)

NAIST(光井):文部科学省のグローバルアントレプレナー育成事業(EDGE-NEXTプログラム)の一環で「CrossXCross(クロス・バイ・クロス)」という公開ワークショップを実施しています。

 今年2019年は10月〜12月まで、土曜日2回の連続講座を3ラウンド実施しています。会場は大阪イノベーションハブ(グランフロント大阪)、大学生以上ならどなたでも参加でき、しかも無料です。GEIOTのエッセンスを体感できる、非常に参加しやすい公開講座ですので、ぜひ多くの方に来ていただきたいです。<2019年CrossXCrossお申込みはこちら


ー生態会(小川):僕でも参加できるということですね!とても興味があります。ところで、僕たち生態会に期待することがあれば、教えてください。


NAIST(光井):起業のエコシステムが豊かになることで、起業に関わる教育者の質・量も向上するよう期待しています。起業家講座などで専門知識を教える講座が増えていますがが、本当に、起業家がすべて知っている必要があるのか?と思うことがあります。起業家は、良い専門家(例えば弁護士など)の見分け方を知っていればよいはずです。忙しい学生のために、受講すべき内容を見極め、効率よく実践的なカリキュラムを組むなど、起業したい学生をしっかりと導ける教育者が増えるべきです。


ー生態会(小川):最後に、起業家したい/起業に関心がある学生や若者へのメッセージをお願いします。


NAIST(三宅・光井):“将来に成果を得る教育”を心がけている私達からは、

  • 起業の基本は小さく尖ったもの(痛手が少ない&マーケットが小さいので取り組みやすい)

  • 痛い目にあうと多くを学ぶので、3回失敗した後くらいのアイデアがうまく行く

ということでしょうか。もちろん、起業がゴールではなく、就職し、企業で新規事業を起こしたり、起業家と取引したり、さらには企業から飛び出してもいいですよね。

 アントレプレナー教育は人格形成でありコミュニティ形成でもあります。“AIが仕事をなくす”と言われますが、人間には新しい仕事を作る力、イノベーションを起こす力があるはずです。ただ、昔よりスピーディーな対応が必要で、教育や社会システムのなかでアントレプレナーシップを身につけなければならない、というのがアントレプレナー教育が重視されている世界的な流れです。

 例えば、1万人のうち1人が新しい仕事を思いつけばよいのです。それを異端視せずサポートするのもアントレプレナーシップだと思いますし、「世の中を幸せな方向に変えていくための人材」を育成していきたいと思っています。


生態会(小川):優先すべきは学生達の幸せであり、起業はあくまで自己実現のための手段の1つということですね。お話しを通して貴学の先生方の学生達への愛を感じました!

 僕は、国際協力・社会貢献といったテーマに興味があるのですが、貴学の起業家育成プログラムにはグローバルな社会課題を考える機会があるなど、海外展開もしっかり視野に入れており、国内にとらわれず様々な課題意識をもつチャレンジ精神旺盛な人にとっても良いプログラムだと思いました。


 生態会としても僕個人としてもNAISTの今後がとても楽しみで目が離せません。 また機会があればもう一度伺いたいです。たくさんの学びを得られた貴重な時間をありがとうございました!



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