生態会では、シェアオフィスを訪問して、運営者にインタビューをし、提供する起業支援、強みや弱みについて迫っています。(過去の紹介記事はこちら:オギャーズ梅田、The DECK、billage OSAKA、SERVCORP、GVH Osaka、GVH#5)
今回ご紹介するのは、日本初の国際的「モノづくり」スペース「KYOTO MAKERS GARAGE(京都メイカーズガレージ)」(以下KMG)。京都市中央市場の乾物屋倉庫を改装した、カフェのような明るいスペースが居心地よく、私たちが訪問した2019年11月の昼下がりも、国際色豊かなスタッフや起業家が集っていました。
取材・レポート:生態会事務局 西山裕子、森令子
インタビューにご協力いただいたのは、KMGの責任者であり、ハードウェアベンチャーのアクセラレータープログラム「Makers Boot Camp」を運営する牧野成将さん(株式会社Darma Tech Labs 代表取締役)、前田絵美さん(同社マーケティング)です。ありがとうございました!
生態会(西山):本日はよろしくお願いします。牧野さんとは長年のお付き合いですが、こうやって生態会でもご一緒できる機会があり嬉しいです。まずは、KMGについてお聞かせいただけますか?
KMG(牧野):KMGは“京都市ものづくりベンチャー戦略拠点”として、京都市、京都高度技術研究所、京都リサーチパークとMakers Boot Campが共同運営しています。開設は2017年、ハードウェア=「モノづくり」の知識・経験がない起業家でも試作できる環境として、3Dプリンター、レーザーカッターなど試作機械を備え、専門スタッフがトレーニングやサポートを提供、国内だけでなく、シリコンバレーやシンガポールなど海外の起業家も多く利用しています。ほかにも、「モノづくり」コミュニティを作るため、ミートアップや、小学生〜社会人までを対象のワークショップ、国際的なハッカソンなども開催しています。
生態会(森):市場という場所も、提供しているサービスもユニークですね。一度来たかったので今日は嬉しいです。KMGは、どのような経緯で開設されたのですか?
KMG(牧野):「モノづくり」に特化したMakers Boot Campを始めたのは、前職のベンチャーキャピタルでの経験からです。海外で有望な会社を見つけても、自社を差別化できなければ競合と勝負できず投資できない…「お金以外の付加価値を提供できるか?」を考えていた頃、シリコンバレーではIoTの普及や3Dプリンターの登場などで「モノづくり」ベンチャーが増加していました。現地に日本の起業家を連れて行った時、ITベンチャーは評価されず、「モノづくり」ベンチャーだけが投資対象として興味を持たれたことをきっかけに、日本の「モノづくり」は海外から見ても非常に魅力的だと気づきました。
さらに、「モノづくり」ベンチャーには、試作から量産に移行するのが難しい「量産化試作の壁」があるとわかりました。2013年頃のデータでは、85%もの「モノづくり」ベンチャーが、その壁を超えられなかったそうです。クラウドファンディングで資金調達に成功しても必要数が作れないといったこともよくあります。
そこで、「量産化試作の壁」を解決できるパートナーとして、世界的にも珍しい“中小製造業による試作のプロ集団”「京都試作ネット」*と連携し、世界中の会社に自分たちだけの強みを提供する…このアイデアが実現し、「京都をモノづくりベンチャーの都にする」「日本のモノづくり企業が世界のスタートアップを支援する世界を作る」がビジョンのMakers Boot Camp設立につながりました。「モノづくり」のプロ「京都試作ネット」と「モノづくり」未経験のベンチャー、両者の橋渡しの役目もMakers Boot Campの専門スタッフが担っています。
Makers Boot Campは海外のベンチャーキャピタルやインキュベーターと強力なコネクションを持ち、試作コンサルティング、試作ファンド(国内11社、米国13社に投資)などで国内外のベンチャーの支援をしています。そのなかで「量産化試作」以前の初期試作、いわゆる“ゼロイチ”段階での支援が必要なことがわかりました。また、「モノづくり」の現場のある拠点の必要性も感じるようになり、地域活性化の意義をあわせ京都市に提案、KMGを共同開設したのです。KMGもMakers Boot Campも京都だからできたと思っています。
*京都試作ネット:島津製作所、オムロン 、堀場製作所、京セラなどの大企業を支えている京都の中小製造業が連携した「量産化試作」をサポートするグループ。現在50数社が参加し、これまでに数千件もの試作相談に対応。
<Makers Boot Campが支援する「モノづくり」ベンチャー事例>
足元の動きを精緻に計測・解析する独自のセンシング技術を内蔵した「スマートフットウェア」開発を支援。ランナーの詳細なフォーム分析や、足の動きと連動して光や音を放つパフォーマンス用の靴などを販売、医療分野などでも注目されている。
在庫管理IoT「Smart mat」サービスで使われている在庫専用のIoT重量計の開発を支援。よく買う日用品の最安値が見つかる価格比較サイト「Smart shopping」も運営。
生態会(森):KMGのサービスは、どのようなものですか?
KMG(牧野):一般会員は月額¥10,000で各機器が1ヶ月20時間まで無料で使え、試作品オーダーも割引にあります。「モノづくり」の裾野を広げるため、学生会員は無料でツールを使えます(時間制限などあり)。ツールに詳しいマネージャーが常駐しているので初心者でも利用可能、レーザーカッターなら2時間¥2,000などトレーニングも実施しています。国内外の起業家を支援するため、全て英語対応が可能です。
生態会(森):生態会の理事長アレン・マイナーともご縁があるとお聞きしました。
KMG(牧野):ベンチャーキャピタル在籍時、自費でシリコンバレー視察に行き、起業家育成のエコシステムが必要と強く思いました。帰国後、京都でシェアオフィスを立ち上げた頃、梅田でインキュベーション施設を計画していたサンブリッジグローバルベンチャーズから声がかかり、GVH Osaka立ち上げ、運営に関わりました。生態会理事長/サンブリッジ・グループCEOアレン・マイナーさんには、今に至るまで様々な助言や支援をいただいています。
生態会(西山):アレンもMakers Boot Campや牧野さんのお話をよくしていますよ。現在の課題はなんですか?コワーキングスペースの運営というのは、なかなか難しい場合もあるようですが。
KMG(牧野):起業家の課題として、ハードウェアはお金がかかること。最初の試作品=“ゼロイチ”をいかに安く早くできるか?が大事です。それをKMGで実現してもらいたいです。ただ、資金調達力も含めて起業家の実力なので、試作に必要な数百万円はなんとか用意する必要はありますね。
コワーキングスペースは、ビジネスとして難しいのは事実です。会員増、スポンサー増など、やり方はいろいろありますが、KMGは行政との共同運営で、教育的な役割も期待されています。教育はビジネスにすべきでないと思うので、例えば、教育機関と連携した「モノづくり」教育などもやりたいと思っています。
生態会(森):最後に、起業家の皆さんへメッセージをお願いします。
KMG(牧野):著名な経営学者だった私の大学指導教官は、最後の授業で「僕は夢が小さすぎた」とおっしゃいました。「夢は一部しかかなわない。小さな夢なら叶うのも一部、大きな夢なら一部でも大きい」と話され、本当にそうだと思いました。スタートアップには夢しかありませんが、夢こそが起業家の最大の価値です。私の好きな言葉「Failure is success if you learn from it(失敗は成功である、そこから学びさえすれば)」のとおり、起業家の皆さんには失敗を恐れず大きな夢を描いて行動してほしいし、自分もそうありたいですね。
一般会員:月額¥10,000/各機器が20時間/月まで利用無料、オーダー15%オフ
学生会員:無料/機器の利用無料(条件あり)
スポンサー(ゴールド、シルバー、ブロンズ):¥30,000~/月
*スポンサーは料金により特典が変わります。また、内容は変更の可能性があります。詳細はサイトをご覧いただくか、KYOTO MAKERS GARAGEにお問い合わせください。
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